【ザ・作州人】宇宙や生命の起源を追い求めて J―PARCセンター長 小林隆さん

ザ・作州人 J―PARCセンター長 小林隆さん
J―PARCセンター長 小林隆さん
         

 4月。新年度がスタートした今月の「ザ・作州人」は茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設「J―PARC(ジェイパーク)」のセンター長、小林隆さん(56)に“登壇”していただいた。宇宙の起源や生命の謎に迫る最先端研究のリーダーを務め、マネジメントも担当。その一方で情報発信にも力を入れ、未来を担う子どもたち向けの出張講座も積極的に行っている。

 とにかく朗らかな人というのが第一印象だ。小林さんは理学博士で物理学者。国の研究機関のセンター長ということで少し身構えていたが、その必要はなかった。
 「目に見えない世界を調べ、宇宙の謎を解く研究を続けてきました。この広大な宇宙になぜ私たちが存在しているのか。なんで物質が存在するのか。それが分かれば、ノーベル賞10個いただけるくらい。ア、ハハハ」

 この道に進んだのは少年時代に育まれた好奇心からだった。出身は真庭市。野山を駆け回り、田植えを手伝ったりしていた小学生のとき、学研まんがひみつシリーズ「宇宙のひみつ」に触れ、宇宙の大きさに圧倒された。

 「1光年はおよそ10兆キロとか、1秒間で地球を7周半する光でも一番近い星まで4年もかかるとか。そのスケールのでっかさに驚きました。あと公民館でも本を借りてよく読んだものです」
 ただ、そのころ漠然と将来について考えていたのは父と同じ教師になること。広島大学理学部へ進んでからは“脱線”しかけたときもある。世はバブル。合コン、学園祭での出店。そして、あのころ定番のスキー旅行と青春を謳歌したそうだ。

 しかし、4年生になって「このままでは何も残らない」。ふとわれに返って猛勉強。なんとか大学院に進むと、研究者になりたいという思いが高まった。96年に公募していた東京大学原子核研究所の助手として採用され、以来30年近く研究者の道を歩んでいる。
 「当時は井の中の蛙。怖いもの知らずだったのがかえって良かったのかもしれませんね。へへへ」

 97年にはJ―PARCの前身、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所に入所。所長を務めた西川公一郎さんに師事し、助手、助教授を経て2007年に教授となった。主な研究テーマは素粒子のニュートリノ。この分野は小柴昌俊さん、梶田隆章さんと2人のノーベル物理学賞受賞者を輩出しているように日本が世界をリードしており、現在その研究を担っているのがT2K実験である。

 これは茨城県東海村にあるJ―PARCの実験施設で人的に作り出したニュートリノビームを295キロ離れた岐阜県飛騨市神岡町にあるニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」に打ち込むもので、それぞれの地名の頭文字を取って「T2K実験」と名付けられ、様々な成果を出している。さらに、27年には「ハイパーカミオカンデ」が運用開始予定。これにより従来の数十倍のスピードでデータを取得できるようになるため、大発見につながる可能性を秘めている。
 そのT2K実験に関わるスタッフは現在500人いて、そのうち400人は外国人。小林さんは、99年からその実験の建設リーダーを務め、実験が始まった09年から15年はそのトップとして実験グループを率いた。

 現在はニュートリノビームを発射する施設「J―PARC」全体の予算や施設運営などマネジメント業をこなしながら研究者としての顔を持つ。それともう一つ、忘れてはならないのが伝道師としての側面だ。多忙の中、実際に津山中や作東中でも出張講座を開いている。
 「エキサイティングな分野なんですが、特に地方では情報が少ない。国の税金を使わせてもらっている立場でもあり、子どもの教育と人材育成は私たちの重要な使命の一つ。お呼びが掛かれば、小中学校へ出向きますし、You Tubeなどでも発信中です。科学に興味を持ってもらうのは大切なことだと思っています」

 後進へメッセージをお願いすると素粒子物理理論でノーベル賞を受賞した朝永振一郎さんの一節「ふしぎだと思うことが科学の芽」を挙げ、その上で「なんでも興味を持ち、謎を解明していってほしい」と話した。
 確かに、いくつになっても好奇心や探究心を失いたくない。「宇宙は絶賛膨張中」。そんな話を小林さんから聞くと、童心に帰ったような気分になる。それとともに、いつの日か作州人からノーベル賞受賞者が出るのではないかと期待せずにはいられなくなった。(山本智行)

 ◇小林隆(こばやし・たかし)1968年9月21日生まれ。落合高から広島大、同大学院を経て東京大原子核研究所助手。97年、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所に入所し、助手、助教授を経て2007年に教授。21年からJ―PARCセンター長に就任。ニュートリノの研究で仁科記念賞、諏訪賞などを受賞。茨城県つくば市在住。


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