【特集 ザ・作州人】国宝を後世につなぐ 「閑谷学校」所長 香山真一さん

ザ・作州人
「閑谷学校」所長 香山真一さん
         

 作州人七十七

◎国宝を後世につなぐ

 岡山県青少年教育センター「閑谷学校」所長 香山真一さん

 今回の「ザ・作州人」は岡山県備前市にある「閑谷学校」所長の香山真一さん(64)に登場していただいた。ご存じ、日本最古の公立庶民学校。その講堂は岡山に二つしかない国宝の建造物のひとつだ。所長になったのは2013年に和気閑谷高の校長に赴任したことがきっかけ。以来、開校の理念や苦難を乗り越えた歴史を語り、保存、普及、文化体験活動に力を入れている。

 知っているようで知らないことはたくさんある。「無知の知」を自覚するようにしているが、この閑谷学校もそんなひとつだった。

 「日本最古の庶民のための公立学校」と教科書に書かれており、高校の野球大会で和気閑谷高と対戦。分かったつもりでいたが、香山さんからレクチャーを受け、目からウロコの連続だった。

 「岡山で国宝なのはここの講堂と吉備津神社です。学校建築では全国で長野の開智学校が他にあるだけ。岡山の宝ですから後世に残していかなければいけません」

 建設が始まったのは1670年。「穏やかな国づくりのためには公正、公平さが大切。庶民も学ぶ学校が必要だ」。岡山藩主池田光政の命を受けた家臣の津田永忠は31年掛け、1701年にほぼ現在の形を完成させた。

 いつの世も人の営みにドラマありと感じるが、閑谷学校も大政奉還をはじめとする時代の影響を受け、栄枯盛衰を繰り返しながら350年の時を超えていまに至る。

 「藩校は全国に270あったと言われていますが、最後は空襲にあったり、朽ち果てたものも多い。閑谷学校は多くの岡山の知識人に支えられてきました」

 国宝の講堂は京都御所に影響を受けたと思われる寝殿造。床は漆が塗られて、外の景観を映し出す。特に紅葉の季節は絶景だそうだ。

 存続できたのは、香山さんによると通気性のいい高床式で耐久性に優れた備前焼瓦を使用。屋根も様々な漏水対策が施されているとのことだった。

 「いやぁ、この津田永忠というのが傑出した人物でしてね。一介の下級武士の出身ながら江戸期最大の干拓事業もしており、彼がいなかったらいまの岡山はなかったかもしれない。その功績は石高にも反映されて…」

 話を聞いているとテレビ番組「歴史探偵」や「その時歴史が動いた」を観ているようで興味は尽きない。一石が一升瓶100個分と知り、勉強になったが、歴史を深掘りするのはこのへんにして〝香山先生〟の歴史にふれてみたい。

 津山高から富山大へ。芥川龍之介や太宰治といった近代文学に興味を持ち、作家を志そうと思ったこともある。国語の先生と聞いていたので堅物だったらどうしようと心配していたらそうでもなかった。

 「基本は自由人。迎合したくないタイプなんですよね。実は」

 卒業後は岡山大安寺、倉敷南などへ。岡山操山時代の2003年には指導していた山岳部が長崎インターハイ男子団体3位になったこともある。

 その後、林野高教頭を経て、2013年から和気閑谷高の校長として実に7年間勤務。この間に地域とのつながりが深まり、20年に県が特別史跡「旧閑谷学校」を活用するために設置した県青少年教育センター閑谷学校の所長に指名された。

 「ここでは国宝の講堂を活用して論語体験をしたり、SDGsのシンボルとも言える300年以上永続している史跡の工夫を探訪したり、文化的な体験活動に取り組んでいます。教育センターというとアウトドアが一般的ですが、このような形は全国唯一です」

 その一方で文部科学省からCSマイスターを拝命。コミュニティスクールの普及推進にも取り組み、これまで地元岡山はもちろん、島根、広島、兵庫、奈良、和歌山、滋賀、愛知を訪問。知見を伝えている。

 住まいは岡山市。最寄りの吉永駅まで電車で通い、そこから40分歩いて出勤している。「健康増進のためです」と香山さん。なるほど、通りで肌つやがよく、声までいいはずだ。

 幼いころは剣道少年だったそうで「津山は骨格を育ててくれたところ。作州人として恥ずかしくない生き方をしようとここまで来ました」と話してくれた。

 座右の銘は父が買って帰った土産物に書かれていた「継続は力なり」。香山さんはこれからも人生という名の道を歩き続ける。(山本智行)

 ◇香山真一(こうやま・しんいち)1959年12月12日生まれ。津山高から富山大を経て82年から高校の国語教師。2010年に林野高教頭、13年から和気閑谷高校長となり、20年から現職。文科省CSマイスターでもあり、一般社団法人「みんなでびぜん」代表理事も務める。趣味は登山、乗馬、弓道。

「閑谷学校」所長 香山真一さん


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