【特集 ザ・作州人】日本大学危機管理学部学部長・福田充さん

ザ・作州人 福田充さん
福田充さん
         

◎運命を変えた30年前の出来事 日本大学危機管理学部学部長 福田充さん

 平和な世界を築くにはどうしたらいいのか。今月の「ザ・作州人」は日本のリスクマネジメントの第一人者、福田充さん(55)に〝ご登壇〟していただいた。激動する世界。国内においては防災、減災が叫ばれており、危機管理学はある意味、いま最も必要とされ、実践されなければいけない学問だろう。そこで、まずは福田さんが危機管理の研究を始めるきっかけとなった「安全神話の崩壊」から語ってもらった。

 あれから30年が経とうとしている。1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神・淡路大震災。戦後、日本で初めての近代都市部を襲った直下型地震は未曾有の被害をもたらした。

 このとき、福田さんは社会情報学を学ぶ東京大学大学院生。現地調査に同行し、生まれ故郷の西宮市の惨状や焼け野原となった神戸市長田区一帯を目の当たりにし、運命が変わった。

 「ショックを受け、これは人災じゃないかと感じました。対応の遅れが一番の原因。これからは災害対策をやろう。そう決断し、それまでの研究を捨てました」
さらに帰京直後の3月20日に都内で大事件が起こる。オウム真理教による無差別の化学兵器テロ、地下鉄サリン事件だ。何とこのとき、福田さんは2本前の丸ノ内線に乗車しており、危機一髪で難を逃れたが、恐怖を実体験したことでその後、大学院を離れ、在野の立場で危機管理の研究に邁進していくことになる。

 その実績が認められ、2004年から内閣官房等で防災、テロ対策、国民保護、新型インフル等に関する委員を歴任。08年からは米コロンビア大学の「戦争と平和研究所」客員研究員に。ここでは特にインテリジェンスの世界的権威、ロバート・ジャービス教授の影響を受け「安全保障についてリベラルなアプローチ」を学んだ。

 「テロ対策や安全保障はタカ派、ハト派でもなく、0か100かという議論でもない。自分たち国民で安全保障の枠組みを作り、それを管理運用していく考え方が重要です」

 10年に日本大学で国内文系大学の学部として初の危機管理学部の構想を掲げ、文科省へ申請。1616年に三軒茶屋キャンパスで開設した。福田さんは現在、学部長を務める傍ら「危機管理学」の第一人者としてメディアでも活躍中だ。

 一見、堅物に見えないでもないが、津山高ではロックバンドを結成し、ボーカルとギターを担当。軽音同好会を立ち上げようと尽力し、挫折したほろ苦い経験も。バンド名は「るなちっく♡うえる」と少し恥ずかしそうに明かしてくれ「女の子にもてたかっただけ」と笑ったが、ヤマハポピュラーソングコンテストに応募するなど真剣に取り組んだ。青春の1ページ。あの十六夜祭ではB’zの稲葉浩志さんと同じ弓道場のステージに立っている。

 実は政治にも早くから興味を持っており、上京する直前にのちに参議院議長を務める江田五月さんの津山事務所に立ち寄り、当時の秘書と意気投合。大学での4年間は議員会館で書生として働いている。ただ、その後は政治の裏側を見たことで一定の距離を置き、大学院ではメディア論やジャーナリズムを学んでいた。

 津山高愛も人一倍だ。22年のリモートに続き、昨年は対面式で講演。「世界をどうすれば平和にできるか?」という壮大なテーマにもかかわらず、生徒の反応は上々だったそうだ。

 「グローバルな時代になって戦争の影響が経済や食料、エネルギー問題に直結し、それを実感しているからでしょう」
年明けから地震、大火が続き、まもなく米トランプ大統領も就任する。最後に危機管理で大切なことを聞くと「平常時に備えて未来を守る。危機が起こってから大騒ぎするのは反省すべき点。7対3の法則で平常時から次の危機へ備える必要があり、それを意識や制度の面から広めていきたい」と答えてくれた。

 備えあれば憂いなし。簡単なことではないけれど、福田教授の講演を聴き、管理責任者を糾弾するのではなく、危機管理システムそのものを構築するのが大切だと感じた。それとともにメディアの片隅にいる一人として「災害報道」ではなく「報道災害」にならないよう、肝に銘じたい。(山本智行)

◇福田充(ふくだ・みつる)1969年8月13日、兵庫県西宮市生まれの55歳。津山高出身、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。内閣官房等で防災、テロ対策などの委員を歴任。2016年に日本大学危機管理学部教授。23年から学部長。著書に「政治と暴力~安倍晋三銃撃事件とテロリズム」「リスクコミュニケーション」など多数。

福田充さん
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