人や環境に優しい服づくり
今回の「ザ作州人」では流行にとらわれないアパレルブランド「MITTAN」を主宰、運営する合同会社「スレッドルーツ」(京都府京都市)の三谷武さん(40)を取り上げる。目指しているのは、ファストファッションと対局に位置するような長く着続けられる現代の民族服。体制に流されない生き方は不惑を迎え、ますます磨きがかかっている。
こんな男が1人ぐらいいてもいい。三谷さんは、穏やかで優しそうに見えて実は信念の人だ。華やかなイメージのアパレル業界にあって、ぶれることなく独自路線を貫いている。
「使い捨てではなく、長く着てもらえるような服、時代や流行にとらわれない服づくりを目指しています」
それを形にするため32歳で独立し、翌年にブランド「MITTAN」を立ち上げた。効率性や利潤を重視した大量生産、大量消費に反抗。生地を選び、染め、国内縫製にこだわっている。
コンセプトはいまの時代の民族服。そのため、基本的にデザインの変わらない定番商品をつくり続け、そのほとんどがジェンダーレスでエイジレスな日常着だ。
なぜ、そう考えるようになったのか。そこには理不尽な世界を少しでも改善しようとする三谷さんの気概がある。いまだにはびこる児童労働、劣悪な環境での低賃金労働といった搾取の問題。不買運動が起こっても一過性にすぎない。
「ファストファッションの構造には問題がある。自分が環境や人に負荷をかけてなにかものをつくるのであれば、そこに責任を持たなければならない。そう思っています」
そのため「MITTAN」では服の寿命を延ばす修繕にも力を入れ、さらに今後は古着を買い取り、再販も行う。「1着の服には、関わった人のいろんな思いやエネルギーが使われている。なので、服が戻ってくるとうれしいです。なかには7年ぐらい経ったものもある。修繕費はほとんど原価です」
展示会は年2回続けて来た。うれしいことに三谷さんの服づくりに対する一途な思いは少しずつ浸透し、いまでは年間の生産数1万5000着に。コロナ禍で始めたネット通販もタグにQRコードをつけ、それをかざすと製造に携わった人物、産地などすべてが分かるようになっている。
津山高専では4年生まで情報工学を学び、SEを目指していた。しかし、服飾デザイナーへの思いが募り、途中で辞めて東京の「文化服飾学院」のアパレルデザイン科へ。卒業後は京都、大阪のアパレルメーカーに勤務した。デザイナーとしての腕を磨きつつ、営業、企画なども担当。「自分は独立するものと思っていた」と言う。
人とのつながりを大切にして来たようで「縫製工場との取り引きは一度始まると終わらない。支え合っていることを実感できるときが幸せです」と笑顔を浮かべた。
もちろん、流行を追えば追うほど、その生き方も大変だろうし、大量消費のシステムに乗らないのも窮屈だろう。2017年、三谷さんが京都・西陣に構えた合同会社「スレッドルーツ」のスタッフは7人。「社員のためにも利益を出さないといけないんですよね」とジレンマとも闘っている。
しかし、こんな時代だ。三谷さんのような信念を持つ人がいてもいいではないか。会社名のスレッドは「糸」を意味する。ときに絹のように、あるいは綿、麻のように。人や環境に配慮した優しいものづくりは、途切れてほしくない。(山本智行)
◇三谷武(みたに・たけし)1981年(昭和56年)5月2日、津山市生まれ。津山高専中退後、東京の「文化服飾学院」でデザインを学ぶ。京都、大阪のアパレルメーカーに勤務後、32歳で独立し、ブランド「MITTAN」主宰。2017年、京都・西陣に合同会社「スレッドルーツ」を設立する。