作州人34
◎伝統文化の再興と発展のために
「日本今様謌舞楽会」二代目家元 石原さつきさん
▽前文
新春第1弾となる「ザ・作州人」には風流な文化人にご登場願った。「日本今様謌舞楽会」(京都市)二代目家元の石原さつきさん(77)がその人。平安時代に流行した「今様」の再興と普及に、その生涯を捧げてきた。コロナ禍にめげず「継続は力なり」の一念でイベントの開催に尽力している。
▽本文
本来なら「今様はじめ」「成人を祝す伝統芸能大会」など新春のお祝い事が続き、慌ただしい日々を過ごしているところ。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、ほとんどの恒例行事は活動停止を余儀なくされているという。
「昨年の3月からこっち、ほとんどがダメになっちゃって。2月の八坂神社での節分イベントも、春の嵐山での催しもどうなることか。困ったことになったと落ち込んでいるんですよ」
コロナ禍のいま、伝統芸能は最も深刻な影響を受けているジャンルのひとつ。この道40年以上の石原さんも、先の見えない苦境をついつい嘆きたくなるが、めげてはいない。「日本今様謌舞楽会」にとって恒例の最大イベント「今様合」(10月第2日曜日、法住寺)は何としてでも実施する方向だ。
「先師亡き後、ご指導していただいた藤本光城先生は、お会いになる度に〝継続は力なり〟とおっしゃっていました。昨年の今様合わせは無観客で行いましたし、今年も無観客でも行いたいと思っています」
そもそも「今様合」とは何かというと、平安時代後期から鎌倉時代にかけ、京の都で流行した貴族の遊びをさす。「今様」という七五調四節に代表される歌を2組に分かれて詠みあい、その優劣を競ったとされる。鎌倉時代に入ると衰退していったが、今様を復活させ、後世に継承しようと1948年、故桝井泰山氏が「日本今様謌舞楽会」を設立した。
桝井氏とは実父を介して知り合ったそうで石原さんがこの活動に興味を持ち、サポート役を担っていたところ、桝井氏が急逝。78年、35歳のときに遺言により2代目を継承することになった。
「人生って、どこでどうなるか分からないものですよね」
その後は文学、歴史、芸術、舞踊の専門家のアドバイスを受け、平安情緒を感じさせながらも今風にアレンジ。舞と歌声、楽器など体裁を整えていった。その活動は国内にとどまらずアメリカ、フランス、ハンガリー、ポルトガルなどで公演。高い評価を得ている。
そんな石原さんは美作高出身。ひとまわり年上の姉、千原しのぶさん(2009年逝去)は、あの片岡千恵蔵に見初められ、東映からデビューし、200本以上の映画に出演した。57年には日本映画見本市に出席するため、当時の東映社長大川博さんらと遥かニューヨークを訪れたほどの看板女優だった。
「女学生のころは姉を慕って、休みの度に津山から京都へ遊びに行ってました。仲のいい姉妹で映画が斜陽になってからは、姉が出したお店の手伝いもしていましたよ。そんなときに今様と出合ったんです」
舞踊は藤間勘しのぶの名前を持つ姉に指導してもらったそうで、年齢を感じさせない美貌と凜とした立ち振る舞いは姉譲りに違いない。
「若い後継者もいるので安心していますが、生きているかぎりは研究を重ね、与えられたその場、その場でがんばるつもりよ」。伝統文化の発展のために。第一人者の風格が漂った。(山本 智行)
◇石原さつき(いしはら・さつき)1943年(昭和18年)6月13日生まれの77歳。美作高から京都女子大へ。78年に「日本今様謌舞楽会」を継承し、伝統文化の発展に尽力。数々の海外公演も成功させる。東映の大女優、千原しのぶ(故人)は姉。趣味はドライブ。