作州人三五
◎超高齢化社会に脳科学で貢献
デンマーク・オーフス大独立准教授 竹内倫徳さん
▽前文
世のため、人のため。今回の「ザ作州人」は脳内のメカニズム、特に記憶にまつわる研究を続けている脳科学者の竹内倫徳さん(49)を紹介する。37歳のときにイギリスに渡り、現在はデンマークを拠点に活躍。脳内のタンパク質の謎を突き止め、加齢による健忘症を改善する薬をつくるのが最終的な目標だ。
▽本文
人生100年時代を迎えようとする中、悲しいかな、人は年齢を重ねるごとに記憶力が低下し、判断力も鈍ってくるもの。しかし、竹内さんがいま取り組んでいる研究は全人類を救うかもしれない。
「最近忘れっぽいな、と感じたことがありませんか?実はそれ、脳内のタンパク質に原因があるんです。私の研究はその謎を解明し、加齢による記憶力の低下を防ぐ方法を見つけることです」
明るく穏やかに説明してくれた竹内さん。2018年からはデンマークのオーフス大で研究に打ち込んでいる。当初、3人でスタートした研究室はいまでは14人に。その中にはデンマークをはじめ、シリア、トルコ、オランダなど国際色豊かな研究者が集まっているという。
もうひとつの任務は日本やヨーロッパ各地での講演活動。もともとは発表の場は苦手だったそうだが数をこなすことで、それを克服したそう。
「漫才と同じでつかみが大事。英語でも笑いを取れるようになりましたよ」
そんな竹内さんは津山産。「幼稚園に上がる前に岡山市内に移ったので、ほとんど記憶がない」というが、もしかすると、このチャレンジャー精神は津山での原風景が育んだものかもしれない。
「小学生のころから私はなぜ私なんだろう?そんなことを考える子どもでした」
操山高ではサッカー部、広島大ではヨット部と文武両道タイプ。やがて遺伝子研究、生命現象にひかれ、東大大学院に合格し、研究者の道を突き進んでいく。
「昔から海外に出てみたいと思っていたんです。英語も読み書きは何とかできるようになっていましたが、イギリスに渡る前には英会話学校に入りました」
2008年からはイギリスのエジンバラ大で10年間、研究員。当初はネイティブな会話についていけず、戸惑ったそうだが、レコーダーをしのばせ、帰宅後に確認したという。
やがて成果は表れ、2011年「サイエンス」や2016年「ネイチャー」といった権威のある科学雑誌に論文を発表。記憶の保持強化には脳内の化学物質「ドーパミン」が重要であることを発見し、アカデメイアの中でのポジションを高めていった。
しかし、問題はその次。「現在のところ、どのタンパク質が強化保持の役割を担っているか分かっていない」という。
「みんながやらないようなこと、めんどうくさいことが気にならないタイプ。自分では粘り強い長距離ランナーと思っています」
好きな言葉は人気漫画「スラムダンク」で出てくる「諦めたらそこで試合終了だよ」だ。
「ここ1、2年でホームランを打ちたい」と結んだ竹内さんが最後にこんなメッセージをくれた。
「新しいことに挑戦している人は若い。変化のない生活をすると老化が早い。脳は使わないと退化します」
最近、記憶がおぼつかなくなってきた56歳。この言葉を記憶にとどめ、忘れないようにしたい。(山本 智行)
◇竹内倫徳(たけうち・とものり)1971年7月5日生まれ。幼少期を津山で過ごす。操山高から広島大を経て東大大学院へ。2008年から英国エジンバラ大で研究員。18年からデンマークのオーフス大独立准教授として自身の研究室を主宰中。論文多数。独身。