各種イベントの盛り上げに一役 「作州忍者鶴山隊」活躍

特集 忍者ポーズを決める河部隊長(左)と藤木副隊長
忍者ポーズを決める河部隊長(左)と藤木副隊長
         

 作州の地に現代忍者が現れたのは2019年の津山さくらまつり。高さ約6㍍「津山城天守閣」がそびえるたくさんの仕掛けが施された「忍者迷路」とともに鮮烈にデビューした。
 戦国時代の忍者の主な仕事は情報収集・発信だが、作州忍者鶴山(つるやま)隊を名乗る彼らの主な任務は「津山の魅力」の発信。津山城もみじまつりや作州城東むかし町、野外フェス、商店街の各種イベントなどに出没し、衣裳の貸し出しや手裏剣投げ、忍者ショーなどで盛り上げに一役買っている。
 発足時こそ平均年齢65歳と全国最高齢の忍者隊を称していたが、隊のポリシーである「郷土愛醸成」に共感する「隠れ忍び」が津山市内外全国から集結し、現在の隊員は小学生から90歳まで約80人。キッズ忍者ダンス隊も擁する。20年にはアイドルユニット「民謡女子ハピネス組」とコラボしたテーマソング「新種目」がリリースされた。
 一方で勉強会にも力を入れている。総務担当のお則こと畑則子さん(57)=平福=は「史実をしっかり学び研究することで実のある活動になると思っている。まちおこしと忍者研究が両輪です。忍者(しのびのもの)の仕事は基本的に秘密であるため、史料がほとんど残っていない。何か関連史料をお持ちの方は、情報提供を」と呼び掛けている。
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 作州の忍者が歴史の表舞台に現われるのは、1582(天正10)年に勃発した本能寺の変にさかのぼる。このとき織田信長に仕えていた森家の三男・蘭丸、四男・坊丸、五男・力丸と、甲賀忍者・伴太郎左衛門らが討死している。
 のちの津山藩主となる六男の千丸(忠政)も13歳の時、信長にお目見えしたが、先輩の小姓からからかわれ、信長の目の前で、その小姓の頭を扇子でたたいてしまう。これをとがめられ、母親の妙向尼の元へ戻されていた。
 本能寺の変の際に森家に目をかけられていた伴惟安(これやす)、唯安(ただとも)父子は、安土城も危ないと知り、安土城の妙向尼と千丸を救出して甲賀の屋敷にかくまったのち、戦から金山に帰還した兄の長可に2人を無事に届けた。この功により伴惟安、惟利父子をはじめ伴一党は森家に仕えるようになる。
 森忠政が美作国に入封する際も伴一党は重要な役割を担う。「森家は百姓に厳しい」という噂が流れており、宇喜多・小早川につながる地元の豪族から忠政の美作国入りを阻止しようとする動きがあった。先遣隊を務めていた伴伊兵衛、久六らは情報戦により豪族を取りまとめ、忠政を無事に入封させる。
 また「美作略史」によると、江戸幕府から津山城天守閣が五層になっているとの疑惑をもたれた際、唯利が「仙術」で江戸から津山へ一夜で戻り、四層と五層の間の「おだれ」を徹して天守閣を四層に見えるように作り変え幕府の追及をかわしたとする逸話が残っている。
 「伴一族がなければ、津山藩はなかった。慶長8年の津山侍屋敷割を見ると随所に伴一党の名前があり、かなり重用されていたことがうかがえる。しかし、戦のない時代に入ると、戦闘集団の仕事はなくなり、伴家は歴史の表舞台から姿を消してしまった」と禿丸こと藤木靖史副隊長(79)=南新座=は話す。
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 「僕を育ててくれた、津山への恩返しがしたい」
 克丸こと河部克己隊長(81)=横山=の忍者との出会いは、5年前。滋賀県彦根市で宿泊した旅館「いせや」の主人から勧められた甲賀流忍術屋敷(甲賀市)を訪問する。「興味本位で買った忍者衣裳が鶴山隊の発足に結びつくとは夢にも思っていなかった」。
 歴史好きで特に戦国武将の織田信長を敬愛していた河部隊長は、「忍者でまちおこしをしよう、これを僕の最後の津山への奉公にしよう」と思いつく。津山市観光協会の後押しも得て、19年の忍者の日の2月22日、観光振興への思いを同じくする仲間たちと津山城に上り、この日を鶴山隊発足の日とした。
 そんな熱い思いは多くの忍者人脈を引き寄せた。そのうちの一人は山田雄司三重大学教授。伊賀市で忍者の恰好で立ち寄ったうどん屋で「どちらの忍者さんですか」と声をかけられたのが最初の出会い。テレビにも頻繁に出演している著名な歴史学者で、いまブームの「松江忍者」の仕掛け人の一人。山田教授を講師に迎えた研修会を開くなど、鶴山隊の指南役的存在だ。
 このほか岡山市出身の歴史学者・磯田道史氏や岩永裕貴甲賀市長、甲賀、京都、群馬、香川など全国各地の忍者・歴史団体とつながり、切磋琢磨しながら現代忍者のあるべき姿を模索している。
 いま河部隊長は、森忠政と忍者をテーマにした物語づくりを考えている。「それは本能寺から始まる。津山城築城に至るまでを影から支えた忍者たちの歴史ロマン。アクションを交えた本格的な舞台をしてみたい」と夢を語る。
 「まずは今年の津山さくらまつりから。ますますパワーアップして観光客をもてなしたい」


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