喉頭がんなどで声帯を摘出した人たちが〝第二の声〟を身につけ、社会復帰を支援するための発声教室が津山市内で開かれている。失った会話やコミュニケーションを訓練によって再び実現するとともに、心のケアや交流も図る。「声は必ず取り戻せる」と、同じ障害に悩む人の参加を呼びかけている。
教室を開くのは、喉摘者でつくる「新声会」(事務局・岡山市、宮田勘一会長)。1969年に創立し、昨年50周を迎えた。会員は県内に約90人おり、岡山、津山市での教室のほか、移動教室なども開く。94年に発足した津山支部は12人ほどで活動し、大谷の津山市障害者福祉センター・神南備園で第1、第3日曜の月2回、教室を行っている。
声を失った人たちの主な発声方法は三つ。声帯の代わりに食道の粘膜を振動させる「食道発声」、機器をのどに当てる「電気式人工喉頭発声」、食道と気管を特殊な管でつなぎ、肺の空気を食道に送り込む「シャント発声」がある。
教室ではそれぞれに合った発声方法を訓練。障害を克服した先輩会員が指導員となり、後輩会員や新入会員に教え、社会参加や相互の交流を図る取り組みを実践している。努力の末に声を取り戻した会員たちは、喉摘者であることを感じさせない流ちょうな会話を披露。会員の一人は「何事も頑張ればどうにかなる。みんなに出会えてそう思う」と話す。
だが、命と引き換えに声をなくした喪失感は想像以上だ。宮田会長(64)=備前市=は「絶望感や孤独にさいなまれ、人に会いたくなくなり、ストレスやうつで引きこもる人がいる」と話す。教室では、術後の後遺症やケアに対する相談なども受け付ける。「同じ仲間がいる会に参加することが社会参加になる。互いの親睦を深めながら、自信につなげてほしい」と願う。
今月6日に開かれた津山教室には、県南のメンバーやボランティアらを合わせ、約10人が参加。それぞれの近況報告や簡単な体操に続いて、発声練習とカラオケによる歌唱訓練に取り組んだ。カラオケは気持ちを込めて歌うことで音程が広がるため、有効な方法という。教室の雰囲気は明るく、笑顔も絶えない。
「言葉の速度を緩めて語尾をはっきりと」。勝央町石生の大土井正さん(90)の声が響く。76年に声帯を摘出したが、今では食道発声のエキスパートと呼ばれる存在。日常生活や会話に不自由はないといい、「生半可な気持ちでは声を出せない。気力を持って練習を続けることが大事」と強調。保護司を長年務めたことから、「社会に貢献できるという気持ちの大切さ」も後輩たちに伝える。
横川利明津山支部長(73)=押入=は「最近は高齢化やそれに伴う体調不良などで参加者が少なくなっている。これからも私たちのモットーの『明るく楽しい教室づくり』に努めながら、未加入の人たちに参加を勧めていきたい」と話している。
問い合わせは、岡山教室は宮田会長(℡090―3746―2625)、津山教室は横川支部長(℡262766)。
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喉頭がんなどで声帯を摘出した人たちが発声訓練や交流を図る「新声会」津山支部の発声教室