「名古屋山三郎と出雲阿国は、ここで見る月が日本一と歌舞伎の『津山の月』で語った。僕はここで見る夕日が大好きだ。坂東三津五郎が日本一の城だといった津山城のおひざ元。50年前、高校時代を過ごした城東の地は最高に輝いていた。本当は今も、何も変わっていない。観光とは歴史に光を当てるもの。住んで楽しい、希望に満ちたワクワクする愛しの城東を復活させたい」
そう熱弁を振るうのは、岡山県津山市城東地区に拠点を置く民間まちづくり団体「津山街デザイン創造研究所」の山本昇所長(65)=京都市。「ここ」とは、旧出雲街道の「大曲」を指す。城が責められたとき、その勢いを止めるためにつくられた大きな弧を描く曲がり角。
山本さんが代表を務める会社リストワールインターナショナル(同市中之町)は、昨年4月に大曲沿いで発生した建物火災の焼け跡を取得した。「城東、津山の顔となる場所。地域の人たちとともに、守り続けた城東の歴史を生かした『世界に誇れる場所』として再生したい」
山本さんは、同県勝央町出身の母親の母校である津山高校に憧れ、高2から同高校に編入学。大隅神社の目の前の叔父夫婦のもとに下宿した。「日本一の学問のまち津山の伝統を引き継ぐ城東に住み、津山高校に通った誇りを『小説岡山県立津山高等学校』に描いた」
そんな作州愛がこうじて5年前、同研究所を設立。日本建築家協会第10代会長の出江寛氏や冬季五輪長野大会の聖火台を制作した菊竹清竹氏ら超一流のゲストを迎えて衆楽園迎賓館でシンポジウムを開き、「美作国アートゾーン構想」をぶち上げた。美作国の再興をかかげ、地域に伝わる伝統美や、現代アートを世界に発信。ライバル視しているのは瀬戸内総合芸術祭。「1300年以上の歴史を誇る美作地域。観光客300万人の誘致を目指す」といってはばからない。
当時のインタビューで山本さんは「夢みたいなことばかり、何ばかなこと言っているんだと言われることもあるけれど、夢を実現するのが僕の仕事」と答えている。
山本さんが最初に手掛けたのは、城下町屋ホテル「美都(びと)津山庵」(同市中之町)と、178津山ファンクラブルーム・リストワールホテル津山(同)。
コロナ禍を逆手にとり、観光庁の実証事業の採択を受け、2回にわたり「津山国際環境映画祭」を開催。津山を舞台にした映画「十六夜の月子」を上映した。
また、城東地区の観光地としての再生に向けた事業プランが観光庁の公募事業に採択され、既存の施設を改修した、箕作阮甫(みつくりげんぽ)をテーマにした町屋ホテルなど四つのユニークな宿泊施設を含む複数の施設が誕生した。
山本さんは、同市西新町の築120年超の町屋をリノベーションした、高級1棟貸しホテル「美都津山庵別邸」をオープン。目の前が旧梶村邸で、2階からは江戸時代のような風景が広がる。「テーマは世界のVIPをお迎えできる津山の迎賓館。年末年始は世界銀行の人や北欧の方に宿泊していただいた。宿泊客に津山をPRしてもらう」。そんな絵を描いている。
「美作国アートゾーン構想」では、世界的な建築家・磯崎新氏が設計した同県奈義町現代美術館と、隈研吾氏が設計・監修した同県真庭市のGREENable HIRUZENを津山と結びたいと考えている。この2月には、奈義町高円に4カ所目となる宿泊施設「ヴィラ美都奈義」が竣工予定。ライブぺインティングアーティストとして国内外で高い評価を得ている、さとうたけし氏に壁面のアートワークを依頼しており、動画サイトなどで全世界へPRする予定。蒜山でもシェアオフィス蒜山ひとときに活動拠点を設置した。
「アートゾーン構想」は約5年間の準備期間を経て今年から、本格的にインバウンド対策に取り組むという。昨年末からフランス、スイス、ドイツ、香港と回って誘客の仕掛けづくりを行い、国内外の旅行会社と提携、仏パリに事務所を設立した。「世界の津山を目指して実践あるのみ。僕のモットーは決して諦めないこと。必ず実現させたい」