岡山県勝田郡勝央町勝間田を拠点に活動している筝曲集邦会(阪壬延枝代表、13人)が、岡山県津山市院庄を舞台にした後醍醐天皇とその忠臣・児島高徳にまつわる故事を基にした筝曲「桜下の吟」の再評価に向け、練習に励んでいる。昨年の作楽神社創建150周年がきっかけ。「美作の地に伝わる美しい物語を美しい音楽とともに後世に伝えたい」と意気込んでいる。
「桜下の吟」は筝曲三上社(岡山)の宗家・三上澄恵氏が1976年に作曲。作詞は土屋幹雄氏が務めた。後醍醐天皇が隠岐に流される途中、美作国の院庄で忠臣・児島高徳が桜の木に刻んだ十字詩によって励まされたという故事を基に創作した。曲中に詩吟が入り、桜の散るイメージとともに物語の美しさとはかなさを彩っている。かつては県内を中心に広く演奏されていた。
「忘れられてはいけない曲。岡山の人間として、作楽神社がある地元の人間として大切にしたい」と阪壬代表(87)=勝間田=。弟子全員が演奏できることを目標に、コミュニティハウス勝間田で練習を重ねている。この春の津山さくらまつりで成果を披露する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になった。次は9月の津山市民総合音楽祭で発表する予定だ。
同じ故事を基にした歌謡「忠義桜」と唱歌「児島高徳」も筝で奏でるという片岡和子さん(81)=勝間田=と妹山律子さん(64)=高野山西=は先日、後醍醐天皇と児島高徳を相殿にまつる作楽神社を参拝して両方の歌を奉納した。「どの曲も先人たちの熱い思いが詰まっている。こんなにも素晴らしい曲があることをより多くの人たちに知っていただきたい」。
写真
「桜下の吟」の練習に取り組む集邦会の阪壬代表(右)と妹山さん(中央)、片岡さん=勝間田コミュニティハウスで
桜下の吟
作詞 土屋 幹雄
作曲 三上 澄恵
前唄
月影淡き院庄
孤影を抱きさまよえば
ただ音もなく散る桜
いずこに求めん夢の跡
中唄
悲運の大君に高徳が
いかで思いを伝えんと
忠義の桜に寄りそいて
削りて書きし筆の跡
後唄
年ふる花に埋もれて
昔の足跡消えたけれど
誉れは永久に香を放ち
立ち去り難き詩の跡