作州人33
◎人と人をつなぐ〝京女〟
京都観光おもてなし大使
長井喜美さん
▽前文
今回の「ザ作州人」は嵐山をはじめとする京都の魅力を発信する「京都観光おもてなし大使」の長井喜美さん(57)に登場してもらった。一流企業のOLから結婚、離婚を経て現在は「京福電鉄」(京都市)に勤務するキャリアウーマン。「嵐山駅はんなり・ほっこりスクエア」の名物マネジャーでもある。
▽本文
嵐電「嵐山駅」を変えた女性というと少しオーバーだろうか。しかし、雅であでやかな「京友禅」を用いた600本のポールが出迎えてくれる光景はまさに圧巻。観光客の目を楽しませ、非日常の世界へいざなってくれること間違いなしだろう。そんな「嵐山駅はんなり・ほっこりスクエア」のマネジャーを務めているのが〝作州美人〟の長井さんだ。
敷地内には京都を代表する17店舗が入り、小径や公園、足湯のスペースを配置。コンコースには3000本の竹林、さらに近くの天龍寺にちなんだ龍の池まで設けられている。いまから40年ほど前、寂れたこの駅から大学に通っていた私にとっては隔世の感、どころの話ではない。
「7年前にリニューアルしたもので大阪生まれで世界的デザイナーの森田恭通さんが手掛けたものです。駅は出会いや別れがあって、人々が集う場所。京都の風景とともに幸せを運び続ける駅であるように願い、思いやりやおもてなしの心が込められています」
こう話す長井さんは京都の魅力を発信している功績が認められ、現在は京都観光おもてなし大使に就任。嵐電沿線の観光PRはもちろん、台湾の高雄メトロとの交流、東北の被災地と京都を結ぶ「キミマツサクラ桜色福プロジェクト」の代表として、両者の架け橋となるなど、活躍の場を広げている。
もちろん、観光大使になるにはハードルは高く、推薦してくれる団体が必要だ。長井さんの場合は「京都嵐山保勝会」がサポートしてくれたもの。102人いるメンバーの中には俳優の京本政樹さん、芦屋小雁さん、歌手の倉木麻衣さん、料理人の村田吉弘さんらそうそうたる人物が名を連ねている。
なぜ、そこに長井さんが加わったのか。聞けば、ひと言では語れないドラマがあった。津山商を卒業後に大阪ビジネススクールを経て昭和シェル石油に入社。一流企業のOLとして働き、結婚し、やがて3児をもうけた。36歳で離婚すると、鉄板焼き店などを経営。「子育てのために必死でした」という。
軌道に乗ったところで、店を手放しイベント会社に就職。嵐山で飲食の催しを何度か開催しているうちに仕切りの良さを買われ、京福電鉄からオファーが来た。47歳のときだった。人生、どこでどうなるか分からない。前向きに人に喜んでもらおうと生きていれば、きっといいことがあるのではないだろうか。
「コロナ禍ですが、震災のことを風化させてはいけないと思っています。東北を応援するイベントは何らかの形で開催したいです。もちろん、京都を訪れた方には人でしかできない思いやりの心、おもてなしを今後も続けていきたいですね」
穏やかながら、それでいて気丈な作州美人がそこにいた。
(山本 智行)
◇長井喜美(旧姓・貝阿彌、ながい・きみ)1963年7月13日生まれの57歳。津山商卒業後、大阪ビジネススクールを経て昭和シェル石油に入社。その後、飲食店経営、イベント会社などを経て、京福電鉄へ転職。2016年から「京都観光おもてなし大使」に就任。