「英〜HANABUSA〜」/岡山・津山市

食関連
         

 欧州オランダで和食弁当のテイクアウトと配達の専門店を営む岡山県津山市出身者がいる。新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってレストランなどの飲食施設が閉鎖される中、忙しくなった。「前を向いてればきっといいことがある」。約9200キロ離れた遠い国から津山にエールを送っている。
 店は、首都アムステルダムから南西に13キロ、車で約20分の距離にある都市・アールスメール(人口約3万1000人)に構える「英〜HANABUSA〜」。数ある和食店の中でテイクアウト、配達専門は珍しい。
 料理を作るのは、津山市山北出身の佐藤さや香さん(34)だ。自宅を店代わりにし、津山商業高校在学時に出会った夫の稔弘さん(38)=津山高専、笠岡市出身=が手伝う。
 オランダに渡ったのは2017年。兵庫県で子どもと3人で暮らす中、三菱電機の技術職を務めていた稔弘さんの異動が決まり、家族で転居した。
 現地の生活や文化になじんだところで帰国の日が近付き、移住を決意。「子育て環境が整っている。子どもに対して寛容な教育スタイルが気に入った」と振り返る。
 弁当屋の道を選んだのは、「妻の腕に自信を感じたから」と稔弘さん。脱サラ後、短期間で食材選びや調理設備の準備、ホームページの開設などを終わらせ、昨年11月、開店にこぎつけた。
 手まりずし、肉巻きおにぎり、天ぷら、手羽元など弁当の種類は豊富だ。岡山風鳥めしといった郷土色あふれる品も抜かりない。重箱にぎっしり詰め、飾り切りで見た目の美しさも演出する。
 客は、在留邦人が8割。価格は料理の内容と量に合わせ20〜30ユーロほどに設定しており、企業の駐在員が接待で利用することも珍しくない。地元オランダ人の反応については、「すし以外の料理はそれほど知られてないが、どれも口に合うみたい」と話す。
 オープン時に企画した無料提供キャンペーンで軌道に乗ると、多い日で30食前後の注文を受けるまでになった。ただ、そう順調にはいかない。今年1月まで維持していた好調は、その後の新年会シーズンの終わりが響いて2月以降は続かなかった。「不安定な時期で、注文が0件の日もあった」。
 そんな矢先、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化。オランダ政府は3月15日に飲食施設などの閉鎖に踏み切った。街が静まりかえる中、これが自宅で営む佐藤夫婦にとって転機となる。
 外食志向の人の利用が増え、3月の売り上げは好調だった1月と同程度に回復、4月は約1.5倍にまで伸びた。家族が帰国して単身残った駐在員のために通常の半額ほどの商品を創作したり、学割を取り入れたりしたのも効いた。
 「知名度が上がったのは良かったけど、生き残れるように努力しないといけない」。飲食施設の閉鎖は6月1日に解除される見込みで、競合がひしめく業界にあって、これからが正念場だ。
 異国で新たな人生をスタートさせた2人だが、郷愁の地でもある津山のことを常に気にかけている。
 市内飲食店が新型コロナの影響で疲弊する現状を「残念で仕方ない」と嘆きつつ、背中を押す。「私たちも挑戦し続けるから、一緒に頑張ろう」。
P①
オランダで弁当屋を営む津山市出身の佐藤さや香さん(左)と夫の稔弘さん

P② コロナ禍で売り上げが伸びている弁当(ホームページより)


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