節目の90回を迎えた 「ザ・作州人」 は関西フィルハーモニー管弦楽団の首席トランペット奏者として活躍中の池田悠人さん(41)に登場してもらった。 年間120回近く舞台に立ち、 来る10月13日に津山文化センター大ホールで開かれる特別演奏会に楽団の一員として凱旋 (がいせん) する。 それは近い将来かなえたい、 ある夢への布石となるかもしれない。
話せば話すほど、 音楽愛やトランペットへの熱い思いがあふれ出た。
「どんな形でもいいので自由に音楽を楽しんでもらいたい。 トランペットを通じて音の世界を広げ、 クラシックに親しんでもらえれば」
トランペットとの出合いは津山西中で吹奏楽部に入部したこと。 「バスケも考えていたんですが、 すてきな顧問の先生に引き込まれた感じでした」。 そこでサックスをやろうと思っていたら 「お前はトランペットだな」。 それが始まりだった。
初めて手にする楽器。 最初は吹けず、 音が出たのは入部1週間後だった。 そこからは 「楽しくてしょうがなかった」。 ある日、 顧問の稲生健先生がさまざまなジャンルのCDを持ち込み、 部員に貸し出した。 「それこそCDショップができるほどの量でした」。 そこで世界的なトランペット奏者のウィントン・マルサリスを知り、 その魅力にのめり込んでいった。
「マルサリスのCDを死ぬほど聴きました。 感化され、 この人の音になりたいと憧れた。 やがて自分も音楽家になれんかなと思うようになったんですよ」
進学先に選んだのは吹奏楽では全国区の岡山学芸館。 津山の自宅から往復4時間かけ、 津山線で通った。 遅刻魔だったそうだが、 人に恵まれ、 才能を伸ばしていく。
高3春には硬式野球部がセンバツに出場。 甲子園球場のアルプス席で演奏したそうだが、 球場入りする際にバスの中に肝心のトランペットを忘れ、 タクシーで追いかけ、 ことなきを得たという。
「甲子園で演奏するのが楽しみで舞い上がってしまいました」
その後は一浪して京都芸術大学音楽学部へ進んだ。 「1年目は準備不足でした」。 おっちょこちょいな一面もあるようだが、 自称のんびり屋さん。 「闘争心に欠けるところがあった」 とも話す。 しかし、 そこは演奏者。 繊細さを求め、 道を究めていくが故の落とし穴も経験している。
過去に味わった2度のスランプ。 高2のときは早くに立ち直ったそうだが、 大学卒業直後には将来への不安も重なったのか長い迷路に陥った。
「急に音が出なくなって、 取り戻そうとしたけれど、 良かったときも分からない状態。 長くて重症でした。 2年じゃきかないぐらい。 その後もしこりのようなものが残っていました」
救ってくれたのは仲間のアドバイスと発想の転換。 「前より下手になったのだから、 それを受け入れ、 一からベーシックなことに取り組んだ。 それが結果的に解決の近道になりました」。
ほとんどの奏者が通るように当初はフリーでオーディションを受ける日々。 「自分のポテンシャルを信じて来ましたが、 ここまで来られたのは諦めが悪かったからでしょう。 生活のため、 アルバイトもしていました。 楽団に入れたのは少し遅い方かもしれません」。
33歳になった2016年に兵庫芸術文化センター管弦楽団へ。 「それまでは鳴かず飛ばず。 プロのオーケストラに入れて死ぬほどうれしかった」。 さらに18年4月に現在所属する関西フィルハーモニー管弦楽団へ移り、 7年がたつ。
「いまは年に楽団として100回、 エキストラなどで20回ほど演奏。 時期によっては忙しくしていますが、 旅行とか食べ歩きが趣味なので楽しんでやっています」
池田さんが所属する関西フィルは今年55周年を迎えた。 この4月からはテレビ番組などでの軽妙なトークで知られる藤岡幸夫さんが総監督・首席指揮者を務め 「情熱的で温かいオーケストラを目指しており、 楽団は明るくてまじめなのが特徴」 と自負する。
その藤岡さんは東京生まれながら津山藩の藩医で東京大学の礎を築いたとされる蘭学者、 箕作阮甫の6代末裔 (まつえい)。 この10月13日、 昨年に続き、 津山文化センター大ホールで 「津山特別演奏会」 を開催するのも、 そんな背景があるからだ。 池田さんは藤岡さんについて 「とても華のある方。 楽員にプレッシャーをかけず、 気分よく演奏させるタイプの指揮者」 と話す。
もちろん、 池田さん自身も凱旋を楽しみにしており、 公演では津山市内の中学校吹奏楽部とのジョイントコンサートも実現する。
「楽しいプログラムになっているのでぜひ、 津山の方には足を運んでほしいです。 そして、 近い将来、 地元で文化的な貢献ができれば、 と考えているんですよ」
まだ40代前半。 池田さんは今後も音楽の楽しさ、 トランペットの素晴らしさを伝えていくつもりだ。
(山本 智行)
◆池田悠人 (いけだ・ゆうと) 1984年1月29日生まれ。 津山西中からトランペットを始め、 岡山学芸館高から一浪し京都芸術大。 卒業後、 兵庫芸術文化センター管弦楽団などを経て、 2018年4月から関西フィルハーモニー管弦楽団へ。 現在は首席トランペット奏者。 妻・祐奈さんはフルート奏者。 京都市在住。