【特集 ザ・作州人】 社会にいかすキャリア教育 「語らい座大原本邸」館長 山下陽子さん

ザ・作州人 「語らい座大原本邸」館長 山下陽子さん
「語らい座大原本邸」館長 山下陽子さん
         

◎社会にいかすキャリア教育
「語らい座大原本邸」館長 山下陽子さん

 今回の「ザ・作州人」は岡山県倉敷市の美観地区にある「語らい座大原本邸」館長として活躍している山下陽子さん(67)に、ご登場願った。岡山県下の高校教師を38年間務め、校長も歴任。倉敷南高へ赴任したことがきっかけで大原美術館とのつながりが深まった。現在は「くらしき未来K塾」を主催し「社会に開かれた教育」の実現に向けて活動中。もちろん、故郷への恩返しも忘れていない。

 根っからの教育者なのだろう。豊かな知識と教養。穏やかな表情とは裏腹に、話し上手で立て板に水のごとく言葉が次から次へとあふれ出る。

 例えば、新任だったころと教頭で赴任した勝山町周辺の違い。鏡野町の名前のいわれは古代に銅鏡の製作集団が住んでいたからなどなど。話題が変わる度に素早く、その理由や背景を説明してくれる。

 「ローマを拠点に活躍していた彫刻家で画家の武藤順九さんは現在、津山にアトリエを構えていて、県北びいき。出雲街道は日本のロマンチック街道だ、なんておっしゃるんですよ」

 高校の先輩にこんなことを言うとしかられそうだが、教え魔ぶりはプロ野球の打撃コーチとして、その熱心な指導ぶりから〝かっぱえびせん〟と言われた山内一弘さんのよう。教えだしたら止まらない。そんな感じだ。

 津山高から青山学院大文学部へ進んだ。両親ともに教員だったこともあり、国語教師になったのは自然の流れのように思えるが、そうではなかったようだ。男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年のこと。当時、四大卒の女子は採用対象外という企業が少なくなかった。

 「実は大学を出てからは一般企業に就職するつもりでした。しかし、地方出身の女子学生はこれと言った就職先がなく、ならざるを得なかったのが実状。でも、教師になったらおもしろく、40歳のころには天職と思えていました」

 1979年の勝山高を振り出しに県北を中心に林野高、母校・津山高の教壇にも立った。そこから落合高や真庭高の校長に。そして2012年、倉敷南高の校長として倉敷に移り、学校と地域をつなげるワークショップなどの活動をしている中で現在、大原美術館理事長を務める大原あかねさん、その父・謙一郎さんとの縁が生まれた。

 岡山大学教師教育開発センター特任教授を経て2018年に開館した「語らい座大原本邸」の初代館長に。人と人の出会いはいつも不思議だが、山下さんのこれまでの足跡と情熱が長年、社会貢献活動に力を入れてきた大原家に認められ、共鳴し合ったのだろう。

 「大原邸をリノベーションして新たな文化施設を開くことになり、何かできませんか、とお声を掛ていただいたのが始まりでした。そこで未来へ向けた教育プログラムやセミナーを始め、いまにいたっています」

 この「語らい座大原本邸」は、もとは豪商屋敷「旧大原家住宅」で、母屋をはじめ10棟が国の重要文化財に指定されている。それまでは代々の大原家当主が暮らす住宅だったことから非公開だったが、だれもが体感できる文化施設として生まれ変わった。

 「語らい座」は”触媒”を意味する「catalyzer」の思いも込められており、山下さんは「未来へつながる教育の場として、ここで思いがけない出会いや学びがあり、それが次への触媒となれば」と期待する。

 目指しているのは学校と地域の結節点。語らい座では「くらしき未来K塾」を主催し、倉敷や岡山を中心に活躍する企業経営者、大学教員、行政関係者によるセミナーも随時開催している。

 さらに、教育者の使命として「体験をしたことを言語化できるようにするのが私たちの仕事」と強調。「教育は学校で教えることだけでは足りないし、保護者や教師、地域が関わってこそ、未来につながる」と力を込めた。

 もちろん、故郷への思いは人一倍だ。「津山は歴史と文化の街。中にいるときより外から眺めるとより魅力的に思えます。津山に残って頑張っている教え子もたくさんいますので、彼らを応援していければ」。美術や芸術にとどまらず幅広いネットワークの持ち主。津山のポテンシャルに山下さんのアイデアが加わると、きっと大きな化学反応を起こしてくれるはずだ。(山本智行)

 ◇山下陽子(やました・ようこ)1957年1月5日、津山市生まれの67歳。津山高から青山学院大を経て1979年から高校の国語教師。2010年に落合高、2012年から倉敷南の校長に。2017年岡山大学教師教育開発センター特任教授を経て「語らい座大原本邸」館長に就任。山陽新聞に月2回(日曜日)にコラムを寄稿。


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