河辺の末澤道子さん(73)が、2作目となる児童文学小説集『かたつむりあつまれ』を自費出版した。「ずっと心のなかにいた“とらちゃん”を送りだすことができて、ほっとしています」。
幼少のころから本に親しみ、小中学校の事務職員として勤務する傍らこつこつと創作活動を続けてきた。「美作創作の会こんぺいとう」と「季節風」の同人で、絵本を描くために絵も習っている。
本作は2作を収録。「とらちゃん」の舞台は昭和30年代のいまはダムに沈んだまち。とらちゃんは元気いっぱいに学校生活を送っている。だけど「ぼくの弁当はみんなと違うものがはいっとるけん、一緒に食べるんはいやじゃ」―、そんな人に言えない悩みを抱えている。
「ほくせんきかん」という言葉に怯(おび)えるように。お父さんの生まれた国に行くか、日本に残るかを迫られる。「どうしても書きたかった。古里のことを思い出しながら、あの日のように元気でいてほしい」。そんな祈りを込めて筆を執った。
「おれの夏休み」は平成10年代半ばごろの、日系三世ブラジル人母子3人の物語。「勤務していた学校で出会った子どもたち。差別など困難にあい、壊れそうになりながらも踏ん張って生きていた」。
ミツル母ちゃんの口癖は「失敗は成功のもと」。「なんでも笑って吹き飛ばす母ちゃんが好きだ。たのもしい母ちゃんが自慢なんだ」。タケルとマサルはそんな大きな愛に包まれ、たくましく生きている。そんな2人が元校長の孤独な老人との出会いを通して大きく成長していく姿を描いた。
表題の「かたつむりあつまれ」は、末澤さんの詩作。表紙の絵は、孫の知思理さんが5年前、小1のとき、新見南吉の「でんでんむしのかなしみ」を読んで描いたもの。「悲しい話なのに、なんでみんな笑顔なの」と問うと、「悲しくたって、みんなで集まって話すと、楽しいでしょ」。そんな答えが返ってきた。
「これだ。生きることはそういうことだと思った」。そう話す末澤さんの創作テーマは「生きる力」。いま折口信夫の民俗学にはまっているという。「美作国の昔話を掘り返しているところ。古い物語をいまによみがえらせ、未来へ伝えたい」。
津山朝日新聞社で印刷。A5判、257ページ。
問い合わせは、末澤さん(TEL:26-3372)。