岡山県苫田郡鏡野町富西谷で、美しい自然にひかれ3年前に移住してきた芸術を志す青年の願いを叶えようと、地域住民が陶芸用の窯の制作に取り組んでいる。伝統の炭焼き窯の技法を駆使した窯は、「富風窯」と名付けられた。天井部分の「甲架け」作業が先月26日にあり、無事に完成することを願うぼたもちが振る舞われた。
「白賀渓谷の絵を描きたい」―。小椋智史さん(40)はそんな思いを胸に3年前、岡山県倉敷市から移住した。今年2月下旬、小椋さんは地域の寄り合いで、20年来続けている備前焼への思いを吐露。「炭焼き窯をつくれるなら、僕に陶芸窯をつくってください」と口にしていた。
「予算は」と問われ、「お金はありません」と答えた。そうしたやりとりを聞いていた林業・築山英次さん(77)は、翌日には自ら所有する木を切り出していた。場所も材料もすべて無償で提供されることになった。耐火レンガは廃窯を解体したものを譲り受けた。設計図は小椋さんが描き、〝おっちゃんたち〟の窯づくりが始まった。
長さ約7メートル、高さは1.25メートルの穴窯。窯口と側面、煙突に耐火レンガ用い、あとは昔ながらの土で仕上げる。
窯作りの最重要部分になる「甲架け」には地元住民ら約10人が参加した。赤土を水でこねて直径15センチほどに丸め、空気が入らないよう天井部分に投げつけていった。あたりにはベチッ、ベチッという音が響き続けた。
昼食時には、天井が落ちないよう願をかけたぼたもちが振る舞われた。富地域では昭和40年代まで炭焼き窯が盛んにつくられ、ねばりけがあるぼたもちを天井の「甲」に見立てた当時の風習。大勢の住民が集まり、にぎやかにほおばった。
築山さんは「みんなが集まって、わいわい楽しくするのが一番。そんな場所になるといいですね」。小椋さんは「驚くほど速くできて感激しました。仲間の電気屋さんは、食料品屋のおばあちゃんから依頼され、茶碗をつくると約束している。すでにいろんな物語が生まれています」と話していた。
今後は内部の焼成室と燃焼室を仕上げて、薪を準備する。初火入れは来春ごろを目指すという。
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小椋智史さん(右上)と、築山英次さん(真中)ら地域の〝おっちゃんたち〟=富風窯前で
伝統の炭焼き窯の技法を駆使した「富風窯」で地域住民が陶芸制作/岡山・鏡野町
- 2020年8月14日
- 歴史・文化