学校法人美作学園=岡山県津山市=は29日、美作大学の公立化に向けた検討を求める要望書を谷口圭三市長に提出した。市長は「重く受け止め、しっかりと検討していく」と述べた。
要望書は、急速な少子化の進行に加え、若者の大都市圏への進学志向が高まっているとし「地方私立大学は志願者数が減少し、今後存続が危ぶまれる状況になることは明白」と前置き。
「大学の存続は学園単独の努力では限界があり、永続的にこの地域で発展継承するには、津山市と一体になった公立化を行うことが望ましい」「公立大学としてこれまで以上に社会的信頼を得て、地域のくらしを支える研究や教育、ひとづくりを安定的に進めることは地域社会にとって大きな意味がある」としている。
藤原修己理事長らが山北の市役所を訪問し、谷口市長に手渡した。藤原理事長は「地方創生において若者定住のまちづくりに取り組んできたが、昨今の少子化を考えると、大学の3年、5年先の見通しがつかなくなった」と説明。谷口市長は「重要な都市機能の一つであり、大学が立地していることは経済、産業、文化面でも大きなインパクトがある。大学の存続は地域全体の課題で、多面的に検討していく」と述べた。
要望書は1月16日に開かれた学園の理事会で決議された。美作学園は先月、「苦渋の決断」として2025年度以降の短期大学部の学生の募集を停止することを発表している。
「募集停止の波、いずれ大学にも」
「募集停止を発表した短期大学部のような波がいずれ大学にもやってくる。何としてもこの地に大学を存続させたい」。要望書を提出した藤原理事長は強い危機感をあらわにした。
「今後存続が危ぶまれる状況は明白」とした要望書は、18歳人口の減少に伴い、全国の地方私立大学が置かれている経営環境の厳しさを物語る。
美作大学には現在、県内外から集まった870人超の学生が在籍。食と子どもと福祉の分野で専門的な人材を育成するとともに、都市の活力の維持、地域の経済活動にも大きな役割を果たしている。
要望書は「大学が閉鎖された場合、若者が恒久的に地域から流失し、経済への影響は言うに及ばず、地域全体の活力が失われ、衰退が加速することが予想される」と危惧している。
定員を満たせず経営難に苦しむ私立大が、公立化する事例は全国的に増加傾向にある。公立大学への転換で、授業料引き下げによる志願者数の増加、ブランド力の向上といったメリットがあるとされる。
市は2020年、作陽高校の移転による影響や美作大学・津山高専のあり方を検討する有識者会議を設置。報告書は「美作大学の設置者変更による公立大学の設置は、既存施設の活用による整備費軽減、高い国家試験合格率など培った強みを生かせる可能性があり、検討すべき選択肢の一つになり得る」とした。
その後、公立化をめぐっては表立った動きは見受けられなかったが、今回の要望書提出により市は本格的な検討に入る。
藤原理事長は「3年から5年の範囲で結論を出してもらいたい。十分検討し、将来的な展望を持った回答をもらえれば」と求めた。
市財政への影響には市民の関心が集まるとみられる。谷口市長は「財政的な見地、実際に大学法人を運営していくといった課題もあり、多面的に検討していく。早急に検討結果を報告できるようにしたい」と述べた。