岡山県津山市高野山西で松本呉服店を営む松本憲治さん(88)は、市内でもわずかになった服の行商を続けている。父の跡を継いでこの道70年。車で地域の顧客を訪ね、外出が難しいお年寄りから「来てくれてとても助かる」と喜ばれている。
扱うのは上着や肌着、ズボンなどさまざまな服。注文を受けた商品を車に積んで出発し、郊外や山間部などにある高齢者宅へ出かける。服を受け取った90代の女性は「買い物に行けないので、松本さんを頼りにしている」と笑顔を見せる。
顧客の中には付き合いが50年以上、2代にわたる家庭も。松本さんは服の好みやサイズを熟知しており 「注文を聞いてその通りの服をそろえ、喜んでもらえるのが一番うれしい」と話す。
かつては父の代からのお得意さんが300軒以上あったという。高校生のころ父についていき、風呂敷に服を包んで列車に乗り込み、周辺地域の家を訪問。嫁入り道具だった着物や喪服もよく売れた。
時代は変わり、着物は売れなくなり、高齢者も自分で車を運転して買い物へ。松本さんから服を買う人は減り、亡くなったり、施設に入ったりして顧客は減少。家族から「親に服を買わせないでほしい」 と厳しく言われることもあるという。
それでも長年の付き合いを大切にし、昔ながらのスタイルを貫く松本さん。顧客の顔を見て、会話を交わしながら1軒1軒に商品を届ける。「服を必要とし、待ってくれている人がいる。元気なうちは頑張りたい」と話している。
問い合わせは、松本呉服店(TEL:0868-26-1019)。
