映画は“人”から生まれる。津山で始まる“キセキ”を全国へ 大谷健太郎監督インタビュー/岡山・津山市

芸術
大谷健太郎監督
         

 「第4回津山国際環境映画祭」が12月6日と7日、津山文化センター=岡山県津山市=で開かれ、大谷健太郎監督の最新作「キセキが、はじまる。」が初公開される。津山を舞台に撮影した短編で、来年以降に制作される長編映画の“序章”となる作品だ。

 映画祭では「NANA」「推しが武道館いってくれたら死ぬ」「風の奏の君へ」といった監督の代表作も上映され、「キセキが、はじまる。」に出演する林勇輝さん、岸田敏志さん、三倉茉奈さん、さらに「NANA」にヤス役で出演した丸山智己さんらと監督とのトークイベントも予定されている。上映とトークが交差する2日間。その中心に立つ大谷監督に、津山で始まった新たな挑戦と作品への思いを聞いた。

江戸時代からの商家町が保存されている城東地区での撮影風景=岡山県津山市で

――今回の短編映画を津山で撮ろうと思ったきっかけは。

津山の皆さんからの熱いオファーが出発点です。映画を“観るもの”として終わらせず、制作の過程そのものを一緒に体験し、感動を共有したいという思いがありました。映画の力で地域の未来づくりに貢献したい、という考えにも共感しました。

――タイトル「キセキが、はじまる。」にはどんな意味がありますか。

「キセキ」は“奇跡”と“軌跡”の両方を指します。映画づくりの過程では、不思議な偶然に導かれる瞬間が必ずあります。それは奇跡のようでもあり、同時にそこまでの歩み、そして未来へと続く軌跡でもあります。

――構想はいつからありましたか。

構想は昨年からあり、2025年5月にプロジェクトが本格始動しました。津山文化センターの12月6日・7日の空きを知り、「それならそこで初披露しよう」と決めました。今年8月には未来の俳優を育てる演技塾を開催し、そこで出会った多くの塾生が短編に出演しています。

――主人公が“映画監督”ですが、ご自身を投影した部分はありますか。

多少の照れはありますが、結果的に自分の映画観が反映されています。私は京都で生まれ、小学五年から中学卒業までの8年間を美作市で過ごしました。引っ越してきたばかりの頃、田んぼの稲穂に張った蜘蛛の巣が朝露に光り、そこに大きな蜘蛛がいた光景を見て、「こんな世界があるのか」と驚きました。都会では見たことのない圧倒的な自然。霧の朝はまるで別の惑星のようで、価値観が一瞬で転換した体験でした。

ただ、私が映画づくりで大切にしているのは風景だけではありません。一番大切なのは、そこに生きる“人”です。よく「この土地には何もない」と聞くことがありますが、そんなことはありません。どんな土地でも人が積み重ねてきた物語が無数にあります。出会った人の言葉や記憶、生き方を丁寧に聞くことで物語は立ち上がってきます。映画は“場所”ではなく、人の思いから生まれるのだと感じています。

そのため、どんな人といても「映画に使えるか」で見てしまう癖があります。妻との口論中にその癖が出て笑ってしまい、怒られたこともあります(笑)。そうした職業病の部分も、主人公に自然と反映されました。

――津山でのロケハンでは、印象的な出会いはありましたか。

ロケハンではまず人に会い、土地の歴史や思いを聞くところから始めます。津山を歩いていると自然とB’zの稲葉浩志さんの足跡を辿ることになり、「津山はロックの聖地だ」と感じました。稲葉さんは同じ地域で過ごした同世代。その活躍の軌跡もずっと見ていました。津山で映画を撮る以上、その存在を意識しないわけにはいきません。実際、NANA以来の“ロック映画”を津山で作りたいという思いがあります。

他にもロケハンではなく、たまたま津山に滞在していた時大隅神社で白い装束を着られた女性神主さんに出会ったことは印象的でした。祭りの準備の時でしたが、話を聞くなかで、物語が一気に形を持ちはじめ、「これで映画が撮れる」と直感しました。

――映画祭で上映される「NANA」についても聞かせてください。

「NANA」はデビュー4作目でした。メジャー映画の監督依頼をいただいた時は本当に驚きました。妻が原作の大ファンで、私自身も読み込みました。

最初から私が監督と決まっていたわけではありません。プレゼンで「この作品は原作どおりにつくるべきものです」と伝え、その上で「原作どおりに撮れるのは私しかいない」と言い切ったことを覚えています。

――原作どおりを実現する上で苦労したこともあったのでは。

最も大変だったのはキャスティングで、特に“ヤス”役でした。高木泰士(ヤス)を演じた丸山智己さんにたどり着くまでに相当な時間がかかりました。セブンスターのポスターに写っていた丸山さんを見た瞬間、「こんなかっこいい男はいない」「この人しかいない」と直感しました。その裏話は、映画祭のクロストークで詳しくお伝えできればと思います。

――最後に、津山の人たちには、どんなことを感じてほしいですか。

まずは「映画づくりが身近で起きている」ことを楽しんでほしいんです。5年後、10年後の自分たちのまちを見つめ直すきっかけにもなると思います。日常から少し離れた“エンタメの舞台”として津山を見ることで、新しい価値に気づけるはずです。

外からの風が入り、新しいつながりが生まれ、その輪に自分も関わっている――その体験こそが、地域を変えていきます。映画祭に足を運ぶことは、その第一歩になるはずです。非日常が日常に少しずつ入り込んでいく、そのおもしろさをぜひ味わってください。


映画 「キセキが、はじまる。」

東京から来た若手映画監督が岡山県津山市を舞台とした映画の制作を目指すなか、
地域の人々との人間模様の中で現代と過去を結ぶヒューマンストーリー。

<あらすじ>
東京在住の若手映画監督が、津山のある経営者から映画制作の依頼があり津山を訪れる。
映画制作のヒントを模索しているなか、
地元の人々からはここは何もない所と言われるのだが、津山の偉人や歴史に触れながら、
依頼元の経営者が行方不明と知らせを受ける。
依頼元に中々会えない中、津山の案内をかって出たのはジーンズ製造会社の息子。
八出天満宮やサムハラ神社を案内していると立往生の車に出会い、
その故障車の老人を助けたことがきっかけに物語が展開していく・・・
若手映画監督は津山の地で映画を作ることが出来るのか。

<出演者> 林 勇輝(神奈川在住・初映画主演)、岸田 敏志(真庭市出身)、三倉 茉奈(NHKドラマ『だんだん』ヒロイン)、伊原木岡山県知事(特別出演) ほか
<監督・脚本> 大谷 健太郎
<ロケ地> 城東地区、美都津山庵別邸、津山洋学資料館、八出天満宮、大隅神社、サムハラ神社、内田縫製など
<プロデューサー> 山本 昇、大谷 健太郎、大和田 廣樹
<音 楽> DJ KAJI
<主題歌> J-REXXX & DJ KAJI feat Sora 「53 号線」
<制 作> 株式会社大谷健太郎事務所
<企 画> 美作の国映画プロジェクト

■問い合わせ先
美作の国映画プロジェクト事務局
708-0834 岡山県津山市中之町8-1(0868-20-1781)

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