「第4回津山国際環境映画祭」が12月6日と7日に津山文化センター=岡山県津山市=で開かれ、大谷健太郎監督の最新作『キセキが、はじまる。』が初公開される。全編津山で撮影された短編で、来年以降に制作される長編映画の“序章”となる作品。
主演を務めたのは俳優の林勇輝さん。津山での撮影を通じ「第二の故郷と思えるほどになった」と語るほど、土地の魅力と人の温かさにふれたという。さらに、俳優を志すきっかけとなった憧れの人のゆかりの場所が撮影地の近くにあったことを知り、驚いた瞬間もあった。そんな林さんに作品や撮影で過ごした日々について話を聞いた。
―― 今回の『キセキが、はじまる。』で映画主演が決まった時、率直にどんな気持ちでしたか?
嬉しかったですね。小さい頃からドラマっ子・映画っ子で、映像の世界に憧れてこの業界に入ったので、「映画に主演として出演する」という喜びと、大谷健太郎監督の作品ということで「しっかり結果を残さないとな」というプレッシャーと……半々くらいでした。
―― 大谷監督とは演技のワークショップが出会いだったそうですね。
ワークショップや撮影中の監督はすごくストイックな印象だったんですが、芝居から離れた“素の監督”と過ごす時間も多くて、そこで「少年を心の中に飼っている方だな」と感じる瞬間がありました。
一番印象深いのは、大隅神社のタラヨウの木にロケハンで行った時です。
「こうやって願い事を書くと叶うんだよ」と教えてくれながら、監督が楽しそうに試し書きをして、「見て見て」と話しかけてくるんです。あの笑顔は忘れられないですね。「ああ、監督って本当に少年を飼っている大人なんだな」と思いました。
―― 本作で演じた“映画監督役”を、どのように捉えて役作りをされましたか?
大谷監督がご自身の映画観を投影した役だと思ったので、監督とのディスカッションを重ねながら理解を深めていきました。
監督は、日常の中の出来事や景色から“映画に使える瞬間”を常に探している方で、人に興味があって、常に「人間の物語」を見つけようとしている。
その視点を自分の内側に持ちながら演じることを意識しました。
その影響で、プライベートでも癖がついちゃって(笑)。
食事中に隣の会話が気になったり、電車で「この人何してるんだろう」とか考えたり。演じた役の感覚が残りましたね。
―― 今回の短編はいわば“序章”。長編について何か伺っていますか?
本編はもうプロットを書き始めていると聞きました。ほんの少しだけ内容のお話も伺いましたが、すごく楽しみです。
どんな形でもまた関わることができたら嬉しいですし、実は監督に「出られるように頑張ります!」と少し大きめの声で伝えておきました(笑)。覚えていてくれたらいいなと思っています。
―― 津山での撮影期間はどのように過ごしていましたか?
撮影は朝から晩まであったので観光する時間はあまりなかったんですが、津山城や「男はつらいよ」のロケ地、ホルモンうどん、牛肉……いろんな津山の魅力を、関係者の皆さんに教えていただきました。
地元を盛り上げようという熱い思いのある方ばかりで、本当に楽しく、すごく貴重な時間でした。勝手ながら、「第二の故郷」みたいな気持ちが芽生えています。
―― 撮影場所の近くに、憧れの藤木直人さんの“ゆかりの場所”があったことはご存じでしたか?
はい、撮影中に伺ってすごく驚きました。「ここが藤木さんのゆかりの地なんだ」と。
実は僕、メンズノンノのモデルになりたくてオーディションを受けたんですが、ファイナルで落ちてしまって。その時、いただいていた内定も蹴っていたので(笑)、本当に真っ暗な気持ちになっていたんです。
そこで藤木直人さんの経歴を調べたら、藤木さんもメンズノンノのファイナルで落ちていたと知って。「モデルになれなくても、藤木さんみたいな俳優になれるんだ」と希望が持てたんですね。それが、今の事務所・キューブに挑戦するきっかけの一つになりました。
藤木さんとは『フィクサー』でご一緒したり、MVのお手伝いに行かせてもらったり、直接「憧れて入所しました」とお伝えしたこともあります。
僕、人にあまり緊張しないタイプなんですが……藤木さんだけは緊張しました。「あ、藤木さんだ……!」って(笑)。本当に優しくて、かっこよくて、素敵な方です。
―― タラヨウの葉に願いを書くとしたら、何と書きますか?
中期的な目標はいろいろあるんですけど……最終的には「多くの人の価値観をポジティブな方向へ導ける人間になりたい」と書きたいです。
映画って、人の価値観をプラスに変えられる力がある総合芸術で、監督、録音部さん、撮影部さん…など多くの人と作り上げるものです。俳優はその一部ですけど、その“一部”としてちゃんと力になれるような人間でありたい。
「この俳優が出てるなら、絶対いい映画だ」と思ってもらえる存在の西田敏行さんや藤木直人さんのような、俳優としても人としても魅力のある方々に少しでも近づけるように。そんな願いを込めて書きたいですね。
―― 最後に、映画祭に訪れる方へメッセージをお願いします。
津山は、僕にとって“第二の故郷”です。
そう感じられるのは、撮影に関わってくださった皆さんが本当に家族のように温かく迎えてくださったからです。撮影後も「また会いたい」と思える方ばかりで、プライベートでも帰りたくなる場所になりました。
景色もとても好きで、とくに城東地区の通りは印象的でした。歴史ある建物に実際に暮らしている方がいて、その風景を思わず何枚も写真に撮りました。
『キセキが、はじまる。』には津山の魅力が随所に散りばめられています。
津山を知っている方は「どんなふうに描かれているんだろう」とワクワクできますし、知らない方は「こんな素敵な場所があるんだ」と感じていただけるはずです。
映画を観ていただいた後は、ぜひ実際に津山を歩いて、歴史や食、景色、人の温かさに触れて、津山を存分に楽しんでもらえたら嬉しいです。
映画 「キセキが、はじまる。」
東京から来た若手映画監督が岡山県津山市を舞台とした映画の制作を目指すなか、
地域の人々との人間模様の中で現代と過去を結ぶヒューマンストーリー。

<あらすじ>
東京在住の若手映画監督が、津山のある経営者から映画制作の依頼があり津山を訪れる。
映画制作のヒントを模索しているなか、
地元の人々からはここは何もない所と言われるのだが、津山の偉人や歴史に触れながら、
依頼元の経営者が行方不明と知らせを受ける。
依頼元に中々会えない中、津山の案内をかって出たのはジーンズ製造会社の息子。
八出天満宮やサムハラ神社を案内していると立往生の車に出会い、
その故障車の老人を助けたことがきっかけに物語が展開していく・・・
若手映画監督は津山の地で映画を作ることが出来るのか。
<出演者> 林 勇輝(神奈川在住・初映画主演)、岸田 敏志(真庭市出身)、三倉 茉奈(NHKドラマ『だんだん』ヒロイン)、伊原木岡山県知事(特別出演) ほか
<監督・脚本> 大谷 健太郎
<ロケ地> 城東地区、美都津山庵別邸、津山洋学資料館、八出天満宮、大隅神社、サムハラ神社、内田縫製など
<プロデューサー> 山本 昇、大谷 健太郎、大和田 廣樹
<音 楽> DJ KAJI
<主題歌> J-REXXX & DJ KAJI feat Sora 「53 号線」
<制 作> 株式会社大谷健太郎事務所
<企 画> 美作の国映画プロジェクト
■問い合わせ先
美作の国映画プロジェクト事務局
708-0834 岡山県津山市中之町8-1(0868-20-1781)
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