美作高校通信制21年迎える

ひと
         

 学校法人美作学園が運営する美作高校(山北)の通信制課程(※メモ)は、2021年度に創設21年目を迎えた。家庭の事情などで中学校卒業後に就職したり、全日制の学校になじめずに中退したりした10代の若者たちの受け皿として、美作地域の学校教育の一翼を担ってきた。現在、その役割は時代とともに変わりつつあるという。設置を呼び掛けた藤原修己同学園理事長(83)=山北=に、これまでの歩みや将来のあり方について聞いた。

 ――20年間を振り返り、どのように評価するか。
 高校は「社会的義務教育」であるという考えが社会に浸透しており、「せめて高校は出たい」と思う中卒の子や「高校だけは出てほしい」と願う親の期待に応えてきたという自負がある。集団に合わなかったり学習進度が遅かったりする弱点を抱えているが、居場所は要る。「勉強でイキイキ、遊びでイキイキ」。これが通信制であり、その中で自分らしく育てば良い。社会性を身につけて巣立つ子を何人も見てきたのを振り返ると、設置した意義があると感じる。
 一方で先生も育った。高校を中退した子がなぜその学校に合わなかったのか。訴えに耳を傾けることでニーズや課題を知った。生徒理解の進んだ高校になったと思う。
 ――成長を見届ける中で特に印象に残っている生徒は。
 中学校での校内暴力がひどく、少年院を出所してきた男子生徒を思い出す。父親は母親に暴力をふるい、母親は我が子にあたる家庭だった。愛情が不足しており、欲求不満のはけ口を身の回りの人に向け、ひとりぼっちになり、自身を見捨てて手がつけられなくなったのだろう。
 入学してまず何が変わったか。自分という人間を理解してくれる同級生や先生に出会えた。それは「味方」であり「仲間」。孤独を抜け出したことで、次第にやる気を出すようになり、夢まで語り始めた。「トラックの運ちゃんになりたい」と。いま、彼はトラックドライバーとして働いている。うどん屋でばったり会った時には「おっちゃんおごるわ」と声をかけてくれた。学校への恩を感じているのだろう。何物にも代えがたい教育の喜びを感じる瞬間だ。
 ――なぜ通信制を設置しようと考えたか。苦労はあったか。
 全国的に不登校や退学が増え、いわゆる「無職少年」が社会問題になった時代。県内にも約1000人いて対策が求められた。
 最初は県教委に設置を要望したが、ハードルが高く断念せざるを得なかった。美作学園に着任して間もない時期であり、ならばここでやるしかないと思った。地域に支えられてきた高校が地域の思いに応えなくてどうするんだと。通信制課程の設置は、時代の要請であり、津山への恩返しだった。
 ただ、校内からは激しい反発があった。当時、通信制は悪いイメージが強く、誰もが高校の印象を下げかねないという心配をしていた。中退する子は「学校不適用生徒」のレッテルを貼る風潮があったがそれは違う。時代の変化とともに「生徒不適用学校」が生まれたのだと考えた。他と同じように美作高校でも多くの退学者がおり、最終的に多くの人に納得してもらえた。強力な体制づくりが必要であり、設置に2年がかかった。
 ――美作高校通信制課程の特色は。
 常に生徒の「伴走者」に徹する姿勢。鉄則は「直そうとすな、分かろうとせよ」。悩みや問題を抱えていれば理解してあげなければならない。だからこそ家庭訪問を大切にしており、他の学校よりも熱心に取り組んでいると感じる。大小あるが、社会性に欠けているのが共通点であり、こうやって外の人とのつながりをつくることで一歩を踏み出すきっかけになる。訪問する時は身構えられないようにネクタイを締めたりなんかしない。あえてジャージを着ている。決まってたこ焼きも買って行く。たこ焼きが嫌いな子はおらず、一緒に食べることでぐっと距離が縮まる。
 授業の一環として宮川の清掃奉仕も続けている。これも社会性を身に付けられる活動であり、社会で生きる上で必要な忍耐力、連帯力なども高められると考えている。
 ――創設時と現在を比べて生徒や環境に違いはあるか。今後、どうありたいか。
 以前と大きく違うのは入学する生徒。少し前までは高校を中退した子が多くを占めたが、最近は中学校を卒業してストレートに入る子が非常に増えた。理由を尋ねると、「ゆっくり学びたい」と話す。能力の数値化や序列化の風潮を嫌がっているようだ。子どもの考えを尊重してあげる親も増えた。価値観や考え方の多様性を享受する時代の流れの中にいるのだと実感する。
 そうなれば、教育も多様性が求められるようになる。子どもの希望、学習スタイルに合った選択肢を用意してあげなければならなくなるため、通信制にもまだまだ開かれた展望があるだろう。時代の要請に応じ、変革しなくてはいけない。
 変わることのない通信制の役割は、「人間形成」だ。友だちをつくり、コミュニケーションを磨き、自信をつけてほしい。美作高校はこれからも子どもたちの自立を助ける学校であり続けたい。

創設から21年目を迎えた美作高校通信制課程について語る藤原理事長。現在も生徒に会う際はジャージを着る。

 【美作高校通信制課程】不登校や退学の増加が社会問題化する中、藤原理事長が2000年に同校に設置を正式に提案し、県教委との協議などを経て翌年01年に創設。20年に通信制コミュニケーションコースに改称した。美作地域を中心に749人(21年9月現在)が卒業。139人が在校している。

プロフィール
ふじわら おさみ 津山市教育委員会教育長や、不登校生徒らを支援する市教育相談センター鶴山塾塾長を歴任し、1998年に美作学園専務理事、2006年に同学園理事長に就任した。鏡野町羽出出身。鳥取大学卒。


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