蝶の標本

行政・公共 発見された標本箱のひとつ(倉敷市立自然史博物館提供)
         

 1930(昭和5)年に昭和天皇が岡山県を訪問された際に献上された昆虫標本688点が、国立科学博物館の昭和記念筑波研究資料館(茨城県つくば市)で見つかった。調査した倉敷市立自然史博物館によると、県内産のまとまった昆虫標本としては最古で、大部分が美作地方産という。
 今年3月に発行された『倉敷市立自然史博物館研究報告』によると、生物学者でもあった昭和天皇が30年11月、陸軍特別大演習の統裁のために来岡。県はそれに向け、歓迎行事の一環で昆虫と植物標本の天覧と献上を計画し、県下の児童・生徒を動員して標本を採集した。教育的効果などを期待して「採集動員」と呼ばれる手法を採用し、15万人以上が参加したという。
 採集された昆虫標本は18万296点にのぼり、指導者として携わった津山市の男性らの協力で整理・選抜作業が行われた。正標本に選ばれた846点が後楽園内での天覧に供され、昭和天皇が熱心にご観覧し、「珍種」に分類された12種14点が献上された。その後、珍種以外の正標本は県郷土館に収蔵されたが、1945(昭和20)年6月の岡山大空襲で建物・標本とも焼失した。
 県とは別に、個人から献上された標本に関する記録があることを知った自然史博物館の奥島雄一学芸員が、科学博物館の神保宇嗣研究主幹に心当たりを問い合わせた。依頼を受けて調べたところ、2019年3月、昭和天皇ゆかりの標本資料を保管する昭和記念筑波研究資料館で、1930年ごろに岡山県で採集されたことを示すラベルが付けられた昆虫標本が見つかった。その後、両博物館を中心とするチームが調査したほか、自然史博物館友の会の専門知識を持つメンバーが取り組んだ。
 県から献上された珍種12種14点のほか、一般献上品とみられる標本を確認。一般献上品は、津山市の指導者の男性から献上された美作地方産のチョウ・ガ類674点で、男性が献上した昆虫標本写真50枚も所在が確かめられた。
 計688点の県産の昆虫標本が確認され、計591種の種名を明らかにすることができた。県内ではすでに絶滅したチョウの一種のヒョウモンモドキ(久米郡加美村=現美咲町)のほか、これまでに県内から記録されたことのないマダラシロツマオレガ、アミメテングハマキ、クロスジキシマメイガといったガ類6種類も含まれている。
 奥島学芸員は「昭和初期の国内の自然史標本は戦災や虫害などのため、国内で現存しているのはごくわずか。今回の調査で、1世紀近く前からの自然環境の変化を知ることが可能となり、今後の環境保全に役立てられることが期待できる」と話している。


1発見された標本箱のひとつ(倉敷市立自然史博物館提供)

2岡山県ではすでに絶滅したヒョウモンモドキ(倉敷市立自然史博物館提供)


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