和牛の繁殖農家「さくら牧場」=岡山県津山市宮部上=で産まれた黒毛和種「竹の谷蔓(つる)」が初出荷され、精肉の販売が始まった。岡山県新見市神郷地区発祥の日本最古とされる血統で、地元農家から最初に譲り受けてから約7年。牧場を経営する末澤雅彦さん(46)と妻の未央さん(47)は「やっとここまできた。種の保存に貢献するためにも改良を重ねていきたい」としている。
竹の谷蔓は、江戸時代の1830年頃に誕生し、新見市特産の千屋牛をはじめ、松坂牛や神戸牛といった有名ブランドの起源とされる。外国産と交配した現代の主要な混血種と比べ、赤身の色が濃くて脂肪は少なく、うま味が強い。純血種だからこその「牛肉本来の味」だが、国内で100頭も飼育されていないという。
末澤さんは2010年に牧場を始め、津山の食肉文化に関心をもつ中でこの品種を知り、引き込まれた。14年秋に2頭を譲ってもらい繁殖をスタート。生後9カ月で肥育に出す新見市の「児玉牧場」、精肉業の五大=津山市神代=とともに「竹の谷Labo」というグループを組んで6次化の仕組みを築いた。
商品化したのは、雌1頭分の約333㌔グラム。一般的な黒毛和牛よりも1年ほど長い40カ月まで育てたため生きたままに熟成が進み、うま味が乗っているという。注文はFAXかメールで受け付ける。雅彦さんは民間資格の「お肉ソムリエ」を取得しており、血統書のほかに焼き方のアドバイスを付けて発送している。
今後も1年に1頭のペースで出荷する予定。今回購入したミシュランの星付きのレストランからは、すでに次回の予約が入っている状況だ。末澤さんが目指す種の保存には、需要が欠かせず、飲食店とのメニュー開発を進めるほか、岡山大と連携して遺伝子データの解析なども行う。
2人は「食の安全性や健康的な生活が重視される中で、国産の赤身肉にも注目が集まる。純血を守りながら改良を重ねるとともに、私たちが住む津山で身近に食べられる風土産物に成長させたい」と話している。
問い合わせは、さくら牧場(090-9081-0245)。