2022年の最後を飾る 「ザ・作州人」 は異色の二刀流で奮闘している潮留淳仁さん(51)に登場してもらった。 あるときは浄土真宗本願寺派 「延徳寺」 の住職、 またあるときは居酒屋 「和顔」 のオーナーという、 二つの顔を持っている。 一見、 相反しているようだが、 表裏一体。 篤志家だった父のDNAを引き継ぎ、 将来は 「無償の塾を開きたい」 と話す。
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♪人生が二度あれば、 と歌ったのは井上陽水だった。 人生が二度あれば、 もうひとつの道を選べたかもしれないのに…という人の世のはかなさや、 やるせなさを甘く切ない声で歌い上げた。 しかし、 潮留さんはいま、 持ち前のフットワークの軽さで充実した二つの道を歩んでいる。
「ときに生臭坊主と言われることもありますよ。 しかし、 どちらも自分の仕事。 生業としてやっています」
在家の宗教と言われ、 一般の暮らしの中で仏教の教えを説いていく浄土真宗ということもあり、 住職兼飲食店オ
ーナーという二足のわらじも、 そこまで不思議なことではないようだ。 バイタリティーにあふれ、 話術も巧み。 そう言えば、 髪形も服装もごく普通どころか、 結構おしゃれだった。
津山市戸川町にある長泉寺の長男として生を受け、 鶴山中から津山東高へ。 龍谷大学文学部真宗学科を卒業し、 1996年から12年間、 東京・築地本願寺に奉職した。 法務参拝部などで活躍。 大物政治家をはじめ各界の有名人の法要や記念行事をこなした。 余談ながらXジャパンHIDEの法名を 「秀徳院釋慈音」 と提案してもいる。
その間に縁あって大田区の延徳寺に養子入り。 谷口から潮留姓になり、 2008年7月から亡き義父に代わり、 住職となった。 その一方で、 3年後に郷土愛が高じて華やかな街、 六本木に居酒屋 「和顔」 をオープンすることになるが、 寺院を取り巻く環境の厳しさも理由のひとつだった。
「津山の人が集まれるような場所、 津山の料理を提供する店を六本木でやりたかったんです。 それと実家で、 弟が継いでいる長泉寺を支えるためでもありました」
もちろん、 六本木に飲食店を構えられるのは人脈と人望があればこそ。 店名は仏教の教え 「和顔施」 から来ており、 いつも和やかで穏やかな顔つきで人に接することをさす。 人気メニューはうれしいことにヨメナカセとそずり鍋。 酒は 「断然、 加茂五葉」 と富久迎を用意している。
あくまで本業は僧侶。 朝は6時半に起き、 日中は法事や仏事相談や寺務を。 そして通夜などがなければ夕方店に顔を出すのがルーティーンとなっている。 そんな潮留さんの夢は無償の塾を開くことだ。 作陽高の教師でもあった亡き父・昭道 (しょうどう) さんは、 道を外しそうな生徒を自宅に住まわせるほど熱血漢の篤志家でもあったそうで、 その影響を色濃く受けているのかも知れない。
「東京では格差が広がっており、 それが教育格差に直結しています。 それを少しでも補えるよう、 資金があれば、 寺子屋のような塾をやりたい。 無償で」
和顔のおいしい料理と温かい雰囲気を求めて、 有名人もちょこちょこ顔を出すという。 そのなかには、 あの松山英樹も。 東京に住む作州人のみなさん、 そして津山ファンの方々。 ぜひ、 訪れてそずり鍋を囲んでください。
(山本 智行)
◆居酒屋 「和顔 (わげん)」 東京都港区六本木3―13―3 アネックスビル
◆潮留淳仁 (しおどめ
・あつひと) 1971年8月27日生まれの51歳。 長泉寺の長男で旧姓は谷口。 鶴山中から津山東高、 龍谷大を経て築地本願寺に。 養子縁組みし、 2008年から東京・大田区の延徳寺住職。 その一方で11年、 六本木に津山の郷土料理を食べさせる 「和顔」 をオープンする。
【特集ザ・作州人】異色の二刀流、その先にあるもの 住職・居酒屋オーナーの潮留淳仁さん