イタリア料理店オーナーシェフ 竹内啓二さん
今回の「ザ・作州人」は食い倒れの街、大阪で５軒のイタリア料理店を経営する竹内啓二さん（45）に登場してもらった。炭火で焼き、素材本来の味を引き出す肉料理が大好評。１号店「イル・ルォーゴ・ディ・タケウチ」はミシュランの「ビブグルマン」に１０年連続で認定されている。メディアへの露出も増え、いまや大阪を代表するオーナーシェフの１人だ。
実を言うと大阪・福島はなじみの場所。竹内シェフが腕を振るう「イル・ルォーゴ・ディ・タケウチ」は、私がかつてお世話になっていたスポーツニッポン新聞が入っている毎日新聞ビルから目と鼻の先の距離にあった。
ご存じ福島と言えば、いまや大阪で一、二を争うほどの人気飲食スポット。そんな激戦区で幅広く店舗を展開していると聞くと、相当なやり手なのは間違いないが、竹内さんは派手めな外見とは違い、いたって物静かな料理人だった。
「おいしい料理をゆっくりと楽しんでもらい、元気になってほしいと思って、ここまで来ました」
それにしても、この快進撃はどうだ。独立し、最初の店を出したのが２０１０年、３３歳の時。その後は肉料理やワインなど、コンセプトに応じた店を同じ福島で次々と展開すると、１９年３月に４号店を梅田に、さらにコロナ禍を乗り越え、昨年１０月には肥後橋に５号店を出した。
人気の理由は素材の良さを引き出した料理。研究に余念がなく、毎朝、市中央卸売市場に足を運んでいる。当然、あの格付け本「ミシュランガイド」も見逃すはずはなく、価格以上の満足感が得られる店「ビブグルマン」に何と１０年連続で認定されている。
「２号店のマチェレリーアも２０１４年から選ばれていたんですが、今年はダメでした。また復活できるようにがんばりたいです」
津山商では野球部。外野手だったが、公式戦にはほとんど出ていないという。しかし、練習は厳しかったそうで「あの３年間があるから社会に出て役立った。忍耐力、根性。いまと違い、修業時代は蹴られたりもしましたが、理不尽さも乗り越えることができた」という。
人生のターニングポイントは社会人２年目の１月、喫茶店を経営していた父が亡くなったことだった。高校卒業後は地元で車の販売に携わっていたが、将来を考え、浮かんだのが料理人の道だった。
「リーマンショックも重なり、手に職を、と思ったんです。それと家の後を継がなかったので、飲食店をやれば、親孝行になるかなという思いもありました」
２０歳の時、大阪の調理師専門学校へ。卒業後は「ポンテベッキオ」などの名店で８年間、腕を磨いた。その後はフィレンツェを拠点に本場イタリアを３カ月かけて食べ歩き。開業に備えた。
「最初は３０歳までに地元に帰って店を出そうと思っていたんですが、悩んだ末にやっぱり大阪にしました」
浮き沈みの激しい世界。特にオーナーシェフとして成功するためには料理人としての腕が大切なのは言うまでもないが、それだけでもダメ。マーケティングやターゲットを絞り込むなど経営者として柔軟な姿勢も求められる。しかし、取材して何より感じたのはチームワークの良さだ。
「１人１人が輝けるように、人が育って来たら活躍できる場所をつくってあげたい。適材適所を見極めて」と竹内さん。いまやスタッフも増え、２６人の大所帯となっている。
最後にここまでを振り返ってもらうと「独立しようと思う人は多いけれど、独立する人は少ない。その差は自分に自信を持てるかどうかでしょう。しかし、焦って結果を求めてもいけない。最初は苦労をした方がいいかもしれません」と照れ笑いした。
ビブグルマン１０年連続は大阪でも数店舗だけ。最近ではメディアへの露出も増えて来た。「チーム・タケウチ」の進撃はまだまだ止まらない。 （山本 智行）
◇イタリア料理「イル・ルォーゴ・ディ・タケウチ」 大阪市福島区福島５―１―２６ ＭＦ西梅田ビル１Ｆ
◇竹内啓二（たけうち・けいじ）１９７７年３月１３日生まれの４５歳。鶴山中から津山商へ。地元でのサラリーマン生活を経て２０歳の時に大阪に出て調理師学校へ。卒業後、有名店で勤務し、２０１０年５月に大阪・福島に１号店をオープン。その後、店舗を拡大し、昨年１０月に５号店を出す。既婚。
