幕末の津山藩の志士を中心に研究・執筆してきた郷土史家の竹内佑宜さん(75)=山下=が、伝記『初實剣理方一流師役 志士 井汲唯一』を自費出版した。動乱のなか非業の死を遂げた、中四国一の剣客といわれた井汲唯一の生涯を描いた。津山市内の書店で販売中。
井汲唯一は、津山藩初実剣理方一流剣術師範役であり、江戸の斎藤道場で塾頭まで務めた剣の使い手。倒幕運動の先兵となった天忠組の変に関与したとされ、京で捕えられ津山の獄に収監、在獄2年半余にして古釘で自らの喉を刺して死んだと伝わっている。
「井汲の死は闇のベールに包まれている。個人的には獄中で暗殺されたと思っている」。幕末から明治初期にかけ津山藩で起こった三大事件の一つと竹内さんは考えており、それらの執筆を30数年年来志してきた。すでに『皇朝神征水軍神伝流第十世宗師植原六郎左衛門』(2009年)、『年譜式志士鞍懸寅二郎ノオト』(2016年)を刊行しており、今作で完結した。
竹内さんは幕末の津山藩の忘れ去られた志士たちの顕彰をライフワークにしており、井汲唯一はその代表的な人物だ。弊紙で1年11カ月にわたり連載した時代小説『青雲山河』の中心人物の一人でもある。「井汲が京で十数人の津山藩の手だれにより捕まったとき、静かに受け入れた。国を憂い、藩を思い行動した結果であり、全てを受け入れる覚悟はできていた。そんな男の生きざまにスポットを当てたかった」。
「長年の思いを何とかまとめることができてうれしい。幕末の志士関連はこれで完成した。次は棟方志功と作州との関わりに焦点を当てて書いてみたい」
同書は2021年度福武教育文化賞の副賞金で製作。A5判、459?、1500円(税込)。津山ブックセンター各店、柿木書店(元魚町)、照文堂書店(堺町)、津山朝日新聞社で販売中。
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新作の伝記『初實剣理方一流師役 志士 井汲唯一』を手にする竹内さん
幕末津山藩志士 竹内さんの伝記『初實剣理方一流師役 志士 井汲唯一』