岡山県津山市出身で兵庫県尼崎市在住の60代の主婦が今年、初出展した「ニューヨーク国際書道展」で準優秀賞を獲得した。「世界の注目アーティスト100」にも選ばれ、昨年まで普通の主婦だった女性が一躍、世界的な書道家へと駆け上がった。
書道家・恵(kei)の名で活動する国枝恵子さん(63)。準優秀賞作品は旧字体の「氣」の一文字を力強くしたため、勢いよく昇る龍神を背景に描いた。
同書道展(アートインキュベーション協会主催)は毎年、米ニューヨークで開催。作法やしきたりに縛られない自由な書を世界に発信する。審査員はニューヨーク在住のアーティストらで、恵さんの作品は「書の力」を前面に押し出した点が高く評価されたという。
初挑戦での受賞に「日本の文字文化の魅力を世界に伝え、心の支えとなれるような作品で元気とエネルギーを届けたい」と喜びと決意を語る。
恵さんは祖父、父ともに自らの書で墓誌を記す環境で育ち、小学校高学年までに書道準三段を取得。その後、高校時代に空手で国体に出場するなど書道からは遠ざかっていた。
結婚、子育て、夫との死別もあり、日々の生活に追われていたが、2023年、知人社長の「文字を書いてほしい」との依頼が人生の転機に。文字の文化や日本の歴史を学ぶ中、書道家としての生き方が脳裏に浮かんだ。「足りないのは一歩踏み出すこと」と息子に背中を押され、同書道展への挑戦を決意。受賞の栄誉をつかみ、ニューヨークのギャラリーで優秀作品の展示会も開かれた。
「世界の注目アーティスト100人」に選出され、4月にはタイムズスクエアの大型スクリーンで日本人9人とともに紹介。夢のようなニューヨークデビューに「支えてくれた皆さんに感謝したい」。
フランスやスペイン、イギリスなど海外での展示が決定し、国内での活動にも力を入れる。「60歳を過ぎても一歩踏み出せば、道は必ず開けることを知ってもらいたい。行動の先にしか未来は見えてこない」と恵さん。ギャラリーカフェを開く夢も抱き、書道を通した大きな軌跡を描く。
