岡山県津山市出身で、ロックバンド・B’zのボーカルとして活躍する稲葉浩志さんの故郷でのソロライブが幕を開けた22日。翌日は誕生日と公演2日目が重なる特別な日とあって、実家として知られるイナバ化粧品店には朝から長いファンの行列ができた。
多くの人が楽しみにしているのが、母・邦子さんに会うこと。初めて訪れる人にも、何度も足を運ぶ人にも、笑顔で接し、言葉を交わしてきた。
そうしたファンとの交流を長年つないできたものの一つが、店に置かれたスケッチブック。今回は来店者が多いため店頭には置かれないが、新たに用意された一冊で773冊目を数えた。
この始まりは稲葉さんのデビュー当時にさかのぼる。店を訪れた一人の女の子のファンが残したメッセージをきっかけに、邦子さんが用意した。以来、稲葉さんへの応援や感謝、津山を訪れた記念など、一人一人の言葉が書き継がれてきた。中には稲葉さん本人のサインが記されたものもある。
邦子さんは2017年の本紙取材で、訪れるファンについて「家族のようなもの」と語っていた。当時ですでに、スケッチブックは663冊。
今回、773冊目の表紙を彩るのは、細かな文様を幾重にも重ねた色鮮やかな曼荼羅。その上には、邦子さんが直筆で記した「HAPPY BIRTHDAY」の文字が添えられた。
曼荼羅を描いたのは、「虎信志龍(こしん しりゅう)」の名で創作活動を続ける女性アーティスト。独学で美術を学び、寺院の天井などにも数多く作品を手掛けている。773冊目の表紙はアクリル絵の具を使って描いた。「唯一無二の世界を描けるように」と作品づくりへの思いを語る。
活動名の「虎信」は武田信玄に、「志龍」は稲葉浩志さんにちなんで名付けた。人見知りで人前に出ることが苦手だったため、当初はアーティストとして活動することを考えていなかった。最初に人へ贈った曼荼羅は、亡くなった稲葉さんの父・一夫さんのために描いたもの。
作品を受け取った邦子さんが感激し、「描きなさい」と背中を押してくれたことが、創作活動の転機となった。さらに「海外に出なさい、成功しなさい」と励まされ、「いつも背中を押してもらっています。国内外で知られるよう、これからも頑張りたい」と話す。
デビュー当時から、稲葉さんを思って全国から訪れるファンを迎え、寄り添い続けてきた邦子さん。773冊のスケッチブックと、一人一人の思いを大切に受け止めてきた歳月が重なる。



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