今月の 「ザ・作州人」 は40年以上にわたりCM制作の第一線で活躍している映像制作会社 「アンデスフィルム」 代表の土屋尚士さん(66)に登場してもらった。 これまで手掛けたCMは600本。 映画プロデューサーとしても個性的な作品を残す。 「もの作りに誠実であること」 という信念の下、 今なお映像の可能性を広げ続けている。
こんなこと、 めったにない。 ウマが合ったということだろう。 まさか土屋さんの口から 「志摩直人」 さんの名前が出てこようとは。
「志摩さんには大変お世話になりました」 「ええっ!僕もですよ」
ここからインタビューは一気に熱を帯びていった。 CMの世界で活躍してきた土屋さん。JRAとも縁があり、 1980年代後半から90年代後半にかけて小林薫、 高倉健、 本木雅弘さんらを起用した傑作を世に送り出した。
その際、 牧場とのコーディネート役をしていたのが他ならぬ作家で競馬評論家の志摩さん。 私もスポニチの競馬記者時代に北海道牧場ツアーなどで長年お世話になっており、 話が脱線していったのは言うまでもない。
土屋さんの左腕にはロレックスの腕時計。 高倉健さんからの贈り物だそうで、 それだけでどんな撮影現場だったかが伝わってくる。
「楽しいことを、 誠実にやろう。 その思いで、 ここまで来ました」
とはいえ、 土屋さんの映像人生は決して平坦なものではなかった。 明治大学を卒業後、 最初に就職したのは東急観光。 旅を企画したかった。 しかし、 わずか半年で退職。 導かれるように広告業界へと飛び込んだが、 ここでも一度リセットする。 学生時代に憧れたバックパッカーとして半年間ブラジル、 アルゼンチン、 チリ、 ペルーと南米を旅し、 異国の風にふれた。
その後は再び広告業界で実績を積み、 40歳を迎える99年に同じ志を持つ5人の仲間と共に制作プロダクション 「アンデスフィルム」 を設立。 以来、 一貫して大切にしてきたのは 「もの作りの場に立ち続け、 もの作りを楽しみ、 そして何より、 もの作りに誠実であること」 だ。
この理念の下、 これまで携わったクライアントはJRAをはじめ、 日本航空や日産、 SONY、 東芝、 キリン、 サッポロ、 カルピスなどなど。 最近の代表作としては吉田羊の 「ポカリ、 のまなきゃ」 シリーズがある。
トータルの作品数は実に600本。 キャリアを振り返り、 自身の仕事ぶりについて土屋さんは 「応援団長」 だと語る。
「プロフェッショナルの作り手たちのポテンシャルをさらに引き出し、 より大きなものにすること。 そして、 探究心と客観性を胸に抱きながら、 作り手と共に走り、 ともに汗をかき続けること。 それは時代が変わっても揺らぐことはありません」
映画製作の分野でもその才能を発揮した。 宮崎あおい主演の 「好きだ、」 (2005年) が大ヒット。 その後も 「タイトロープ」 (2013年) 「ダライ・ラマ14世」 (2015年) など、 メッセージ性の強い作品で確固たる評価を獲得した。 2027年4月には新たな劇場映画 「あをの情」 の公開を控えており、 今なお業界の最前線を走り続けている。
「映画とCMは似て非なるもの。 それぞれの良さや大変さがあり、 どちらも楽しい」
実は、 生まれは北海道旭川市。 その後、 広島県福山市を経由して7歳の時に津山市へ移った。 「音楽と映画が大好きな少年でした」。 多読家としても知られ、 沢木耕太郎や高橋源一郎といった数多くの作家の小説から印象に残った言葉をピックアップし、 ノートに書き留めている。
津山高時代に読んだサマセット・モーム作 『月と6ペンス』 が座右の書。 また同じころに学んだ 「天知る、 地知る、 己知る」 という言葉を戒めにしている。
「ズルしようとした時やラクしたい時に頭に浮かびます」
もちろん、 やりたいことはまだまだある。 ひとつは映画製作。 「最後と思って作った映画がこれまでで一番楽しかった。 もうあと1、 2本作りたくなってます。 これからもずっと表現者でいたいから」
もうひとつはスペインのサンティアゴ巡礼だ。 これはキリスト教三大巡礼の一つ。 土屋さんはすでに開始しており、 アーネスト・ヘミングウェイの小説 「日はまた昇る」 の舞台と重なっている巡礼路を訪ね歩くことを心待ちにしている。
「実はね。 いまスペイン語を必死で学んでます」
66歳にして、 この行動力と実行力は後に続く者にとっては道しるべのような存在。 「エンタメの伝道師」 として土屋さんは、 これからも人々の心を揺さぶる作品を紡ぎ出していく。
(山本智行)
◇土屋尚士(つちや・ひさし) 1959年(昭和34年)10月4日、 北海道旭川生まれ。 津山高から明治大を出て旅行代理店、 CM制作会社で勤務後、 南米を旅し再び、 CM制作会社PROCEEDに。 99年に独立し 「ANDES FILM」 設立。 映画 「好きだ、」 「タイトロープ」 「ダライラマ14世」 など製作。 「あをの情」 は2027年4月公開予定。
