【ザ・作州人】法律家 初川満さん

ザ・作州人 法律家の初川満さん
法律家の初川満さん
         

 争いや災害が絶えない社会情勢の中、 人権はどう扱われるべきなのか。 今月の 「ザ・作州人」 は法律家の初川満さん(76)にご登場願った。 世界的な権威に師事し、 国際人権法の第一人者として歩んだ半生。 いまもなお、 現役として社会の難問を解決するためのヒントを提示し続けている 「知の巨人」 だ。

 混迷する中東情勢や頻発するテロ、 災害など、 世界はいま、 法の支配を揺るがしかねない危機的状況にある。 こうした難題に対し 「国際人権法」 という盾を手に、 法律家として長年、 統一基準作成の最前線に立ち続けてきたのが初川さんだ。
  「人権は普遍的であると同時に歴史の中で勝ち取られてきた歴史的産物です。 だからこそ思考を停止させず、 絶えず法的な対話を続けるべきだと考えています」

 岡山県津山市生まれ。 いまはなき共和中では現在、 美作大学理事長を務める藤原修己氏の薫陶を受けた。 そこから津山高校へ。 両親とも教師という家庭で育った少年は意識が高く、 夏休みを利用して京都の予備校へ通うほどだった。

 晴れて東大法学部に入学。 学園紛争を横目に、 初川さんは東大生によるバングラデシュ独立支援の中心人物として救援活動を行い、 東大駒場キャンパスでシンポジウムなどを開催した。 1973年に来日したシェイク・ムジブル・ラーマン大統領と面会している。
  「あのころのバングラデシュでは人が殺されるのが当たり前のようでした」
 その後、 研究者の道に進むため、 イギリスの名門ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス (LSE) へ留学した。
  「日本にまだない、 新しい分野の学問を開拓したかった」
 世はバブル全盛期。 多くの駐在員が 「骨休め」 を兼ねて留学する時代だったそうだが、 初川さんが師事したのは、 後に女性初の国際司法裁判所 (ICJ) 所長となるロザリン・ヒギンズ教授だった。  彼女の講義があまりに高度だったのか、 志願者は少数精鋭。 初川さんは押しかける形で日本人唯一の門下生になった。

  「あなたに全部の時間をあげる」。 世界トップの教授から4年間、 論文のチェックはもちろん、 英文の添削までしてもらい、 最終的には 「優」 にあたる 「ディスティンクション」 の答案が書けるまで進歩した。
  「まともに英語も書けなかったころ。 本当に恵まれました」
 一方で、 そのころのイギリスではアイルランド共和軍 (IRA) のテロが多発していた時代。 実際 「1、 2キロ先で爆発があった」 そうで、 ねじれた問題を肌で感じ取ってもいた。

 1989年に39歳で帰国。 帝京大講師を経て初川さんを招聘 (しょうへい) するため 「国際人権法講座」 を新設した横浜市大へ移ると、 まだ体系化が進んでいなかった 「ヨーロッパ人権条約」 や 「テロと人権」 といった分野にいち早く光を当て、 学術的な先鞭 (せんべん) をつけた。
  「国際法は、 社会の難問を解き明かすためのプロセスである。 また生きた道具であるべき」。 師から受け継いだ信念を胸に、 問題解決のヒントとなるような研究、 論文発表に邁 (まい) 進した。

 昨今の中東情勢でも議論となる 「国家の安全と個人の自由」 という矛盾に対し、 感情に左右されない冷静な法的論理で対処していく。 その姿勢は著書 『国際テロリズム入門』 などでも見られ、 ねじれた現代社会を読み解く道標となっている。
 もちろん、 国内でも多くの恩師に恵まれた。 ロンドン大留学の推薦文を書いてくれたのは憲法学の芦部信喜氏。 国際法の田畑茂二郎氏には 「キミ、 今度新しい施設ができるから研究員になりなさい」 と誘われ、 その 「世界人権問題研究センター」 は今年創立30周年を迎えた。
 2年前には兼任していた横浜市大客員教授を退官した。 しかし、 76歳となるいまも研究、 執筆意欲は旺盛だ。 つい最近 「災害犠牲者の人権はどうあるべきか」 というテーマの論文を書き上げたばかり。 聞けば字数は実に4万字に及んだそうだ。
  「災害は人を選びません。 老若男女、 国籍、 障害のある、 なしも関係ない。 しかし、 その犠牲者の尊厳は法によって平等に守られる必要がある。 同じ被害なら同じ保護を受けなければいけない」

 一方で人権は決して不変の真理ではなく、 歴史の中で血を流し、 勝ち取られてきた 「歴史的産物」 であると重ねて強調。 それゆえに、 絶えず時代との整合性を確認する必要があるとも説く。
  「時代は刻一刻と移り変わっていく。 学者は金科玉条を守りがちだが、 変化を拒む人間ではダメです。 自分の軸をしっかり持ちながらも、 時代に合わせてしなやかに変化すること。 津山にいる若者にもそう伝えたい。 それが、 不確実な世界を生き抜く本当の力になるのです」
  「知の巨人」 は真実を求めて、 いまなお新たな道を切り拓き続けている。 (山本智行)

◇初川満 (はつかわ・みつる) 1949年6月14日生まれ。 津山高から東京大学法学部卒。 英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス (LSE) 大学院修了。 横浜市大教授、 愛知学院大教授などを歴任し、 現在は 「公益財団法人世界人権問題研究センター」 研究員。 著書に 『緊急事態と人権』 『国際人権法の展開』 など。

法律家の初川満さん
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